術後ケアの協業によって外科手術を効率化する
「チーム力は神の手に勝ります」
まずチーム医療を実践するための仕組み作りに取り組んだ。
「若手のうちは手術ができずに術後管理ばかり。それでは医師たちのモチベーションを保つことは難しいです。この問題を解決するには、少人数の外科医に症例を集約させることが必要なのです」
分業ではなく協業であることがポイントだ。
「米国式の分業は長所もあるが、『これは自分の仕事ではない』と融通が利かず効率よく進まないことがよくあります」
オーバーラップできる部分は補完し合い、場面ごとに最大の効率が上がるように仕事を分担している。
協業のための要となるのが、集中治療医との連携だ。幸い米国で研鑽を積んだ集中治療医率いるチームがすでにあった。心臓手術の術後管理はほとんど経験がないチームだったが、田端氏は最初から彼らと共に術後ICU管理を行うシステムを選択した。内科系の集中治療医と心臓外科医では、術後管理の考え方に違いがあり、始めのうちは意見やスピード感が食い違うことも多かった。治療方針では、エビデンス重視の集中治療医に対して、心臓外科医は経験を重視する傾向があった。
「片方の考えに偏るのではなく、互いの得意分野を擦り合わせながら方針を立てることが大切。話し合いの場を設けることは、正直、時間や手間がかかりますが、必ず改善点があり、次にもつながります」
心臓血管外科所属の「診療看護師」がいることも特徴である。診療看護師は主に外来や病棟で術前のリスク評価や術後管理を中心に活動している。
「研修医の代わりというわけではなく、看護のエキスパートが術前から術後まで一貫して患者を診ることで、医師の目の行き届かないところまで患者のケアができます」
集中治療科による24時間体制での術後管理と診療看護師によって、対応できる症例数は大幅に増えた。手術に専念できる環境が整ったため、医師一人が担当する症例数は増加、個々のレベルアップも図れる好循環が生まれた。