外科の楽しさと苦しさ。働く場所をどう選ぶ
─山本健人先生(外科医けいゆう)が語る【前編】

更新日:2025/04/01 公開日:2024/04/24

山本健人先生(外科医けいゆう)が語る「外科の楽しさと苦しさ。働く場所をどう選ぶ」

外科系医師は激務や「仕事量に給与が見合わない」といった理由から、減少傾向にあります。今まさに、疲れ果てて将来を考えている先生もたくさんいらっしゃるのではないでしょうか。

その現状を探るべく、消化器外科医として活躍中で、『すばらしい人体』などベストセラー著者でもある“けいゆう先生”こと山本 健人先生に大学医局所属の医師という立場から、キャリアの選択肢や若い先生方への思いを語っていただきました。

山本健人先生

医学研究所北野病院 消化器外科/腫瘍研究部
京都大学消化管外科客員研究員

山本 健人(やまもと・たけひと)

2010年京都大学医学部卒業。2010年神戸市立医療センター中央市民病院臨床研修医、2012年同外科、2015年田附興風会医学研究所北野病院消化器外科、2017年京都大学大学院医学研究科消化管外科学博士課程を経て、2021年から現職。「外科医けいゆう」のペンネームで医療情報サイト「外科医の視点」を運営し、累計1200万超のページビューを記録。X(旧Twitter)フォロワー数は10万人超。著書『すばらしい人体』『すばらしい医学』はシリーズ累計23万部超。資格に、外科専門医、消化器病専門医、消化器外科専門医、内視鏡外科技術認定医(大腸)、感染症専門医、がん治療認定医など。
ペンネームの「けいゆう」は、娘と息子の名前からとったもの。

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「外科に向いていない」と感じてしまうのは、今の環境が力を発揮しづらい場所なのかも

山本健人医師

── 山本先生は京都大学消化管外科のご所属です。大学医局の若手医師からは「激務」「裁量権がない」という声を聞くこともありますが、先生の研修医時代はいかがでしたか?

山本先生
私はキャリアの初期により多くの手術症例を経験しておきたいと思い、あえて研修先に忙しい病院を選びました。

実際、日中も夜間も毎日のように手術があり、激務でしたね。しかし自ら望んだ環境だったので、ストレスを感じることは少なかった気がします。得られるものがたくさんありましたし、若手の意見や要望を聞いていただける環境で、ある程度の裁量権を持たせていただけたのも、ありがたかったです。

── 裁量権があるのとないのとでは、忙しさの感じ方が変わりそうです。

その通りです。たとえばある後輩は、勤務先の関連病院では一番下で雑務も多いそうですが、「ほとんどの手術を任せてもらえるのですごく充実している」と言っています。一方で、「後輩が入ってこないからいつまでたっても下っ端でつらい」といった先生の話も聞きます。

── 確かに同じ職場環境や働き方でも、楽しいと感じる方もいれば、苦しくて悩む方もいらっしゃいます。価値観や体力も人それぞれですしね。

職場環境や人間関係の悩みから、自分が「外科に向いていない」「合わない」と思ってしまう方も少なくないのが現状です。こういうケースは決して「(外科に)向いていない」のではなく、その先生にとって今の環境が、力を発揮しづらい場所なのではないかと思います。

実際に、「働く環境や人間関係が変わって、つらかった外科の仕事が急に楽しくなった」という後輩の先生をたくさん見てきました。困ったときは、ぜひ私に相談してほしいといつも思っています。

── 転職や異動でがらりと変わるのは、どの施設、診療科でもありますね。先生の医局はいかがですか?

ありがたいことに、私が所属する京都大学消化管外科の医局は一人ひとりの希望や特性を尊重した働き方を大事にする風土があります。

「自分のやりたい仕事内容と少し違う」「仕事の強度が自分に合っていない」といった場合も、親身になって相談にのってもらえるという安心感があります。関連病院が60以上あるので、異動によって解決できる悩みも多いように思いますね。

── うらやましい環境ですね。その一方で、「環境を変えたいけれども、難しい」「どうしたらいいかわからない」とお悩みの先生もいらっしゃると思います。そのときはぜひ、先輩の先生や民間医局に相談してみていただきたいです。お話しされるだけで、「気持ちがスッキリした」という先生もたくさんいらっしゃいます。

オンコール“ではない”日に呼ばれるのが、一番つらい

── なかには「手術は好きだけど、体育会系なのが自分には合わない」と外科を諦める方もいらっしゃいます。先生にとって、一番つらかったのはどういう部分でしょう?

おそらく業務量の多さそのものより、オン・オフの区別がつかない環境下でつらさを感じるのだと思います。オンコールの日に呼ばれるのは、心の準備ができているのでつらく感じません。“呼ばれる予定でない日”に呼ばれるのが、一番つらい。生活を自分でコントロールできないのですから。若い先生方が外科を敬遠する理由の一つでもあると思います。

私が今勤務している北野病院消化器外科では、オンコールの日以外は呼ばない、業務量が不均衡にならないよう留意する、という強い意識が組織全体にあります。もちろん、人員不足の施設では難しい現実もあるでしょう。こうした状況は適切な分業によって解決されなければならないと思います。

── 多くの外科では“激務”や“体育会系”といったイメージを払拭するため、環境改善に注力されていますね。当社が開催している「レジナビFair」(医学生・研修医を対象にした合同説明会)は、参加者が研修病院や医局の先生方に直接お話を聞ける場です。そこで「思っていた外科のイメージと違った」と驚かれる方も多くいらっしゃいます。

嬉しいですね。外科医は全国的に減少していますし、『医師の働き方改革』も始まります。どの施設でも、働きやすい環境づくりに力を入れていると思います。

── 山本先生の現在の働き方をいかがでしょうか?

オン・オフがはっきりしており、働きやすいですね。自宅が職場から近いこともあり、たいていは家族と一緒に夕食を取れる時間に帰宅しています。もちろん、長い手術の日は帰宅が遅くなることもありますし、オンコールの日は夜中に緊急手術をすることもありますが、それほど多くはありません。当直明けは休みです。

土日祝は休みですが、必要に応じて土日のどちらかだけ病院に行くこともあります。その際の滞在時間は、一時間位でしょうか。

── ワークライフバランスが充実されていますね。外科は自分の時間確保が難しく、オン・オフのメリハリをつけにくいイメージを持たれがちですが、お話を伺うと印象が変わります。もちろん、すべての病院が同じ状況とはいえないでしょうが、外科医の働き方も変化しつつありますね。

外科医として働くならどこで?大学医局のメリット・デメリットとは

山本健人医師

── 外科医として大学医局と市中病院のどちらを選ぶか、迷う方も多いでしょう。大学医局に所属するメリットを伺えますか。(編集部注:ここでの市中病院は、大学医局の関連施設になっていない医療機関・診療科を指すものとします)

大学医局の良さは、どのような将来像を描いても、ロールモデルとなる先輩医師がいることです。目指す医師像やキャリアに向かって、いつまでに専門医資格を取得して、どの年代で留学をしたり大学に戻ったりすればいいのか。いつまでにこういう手術をしたいとか、こんな研究をしたいとか。同じような悩みを持っていた先輩医師がいるため、相談したときの解決策もリアルなのです。特に京大は仲間がとても多いですし、他の施設にいても頼れる仲間に相談できる安心感があります。

一人ひとりが目指す医師像やキャリア実現の最適解を具体的に提示しやすいことが、大学医局の魅力だと思います。

── 先輩や仲間が多く、目指すキャリアが見えやすいのは良いことですね。

臨床だけではなく、研究や教育方面へのキャリアの選択肢もあります。長年蓄積されてきた教育のノウハウを利用して、指導力やマネジメント力といったスキルを得られることも大学医局のメリットだと思います。逆に「教えるのが好きではない」という方は、つらく感じてしまうかもしれませんが……。

また、難度の高い手術症例は母数が少なく、大学病院や関連病院である基幹病院に集約されます。経験できる症例の幅が広く、手術教育においても有利だと感じます。ただ、施設内の人数によって症例が分配されるため、一人当たりの経験数が少なくなるケースもあります。医局に属していても、こうした恩恵を受けられていないと感じる先生もいらっしゃるようです。

── お話しづらいかもしれませんが、デメリットを挙げるとすれば、どんなところでしょうか?

大学によって事情は異なると思いますが、一般的には勤務先の選択肢は大学関連病院ですので、その数に制限があることでしょうか。
その点、市中病院は全国の病院から勤務先を選べるため、自由度が高いといえます。

── 市中病院であれば多くの選択肢から勤務先を選べる分、給与面の希望も叶えられる可能性が高いです。

それは大きな強みですね。私はずっと大学医局に属してきたため、市中病院のメリット・デメリットは詳しくないですが、どちらにも一長一短はあるでしょう。特に若い先生方には、さまざまな選択肢があることを知っていただきたいです。ご自身にとって「譲れないことが何か」がわかれば、叶う場所はきっと見つかります。

外科の魅力は、技術の凄まじい進化。だからこそ若手医師が活躍できる

外科の魅力を語る山本健人医師

── 山本先生が思う、外科の魅力とは何でしょうか?

外科は日進月歩の勢いで進化しています。私が医師になったころは腹腔鏡手術の全盛期で、年々カメラの映像が高画質になり、現在では3D内視鏡システムが普及しました。2012年にはじめて前立腺がん手術に保険適用されたロボット手術も現在では11術式が保険適用になり、今では切離ラインを教えてくれるAIが開発される時代になってきました。

これが、私が医師になってからわずか14年の間に起こったことです。この進化のスピードは驚異的だと思いますね。外科ではテクノロジーの進歩や恩恵を直接的に実感できるので、医学の進歩の最先端を経験できる面白さ、楽しさがあります。

── 一昔前にはなかった、新しい外科の魅力ですよね。

私が医師になったころに同じ質問をされたら、「外科は自分の手で病気を治せる」「快復して退院される姿を見るのが喜び」と答えていたでしょう。でも、たぶんそれを今の研修医の先生に伝えても、「そんなことはわかっているけど…」と思われてしまう(笑)。もちろん、そうした魅力は今でもありますよ。

それに今は、若手の外科医が活躍できる時代になっていると感じます。ロボット手術が世の中に出始めたころは、修練を積んだベテランの先生からやっていこうという時代でしたが、現在は学会の方針で若手の段階でもロボットに触れられるようになってきました。

若い方こそ、チャンスがあります。一人でも多くの先生に、外科の楽しさを実感していただきたいです。

▶【後編】「『悩んだら相談して』キャリアの選択肢は幾通りもある」を読む

※本記事は2024年3月の取材に基づき、2025年3月に再構成しました。文中の所属・肩書等は取材当時のものです。

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