安田
外科医として働くなら大学医局と市中病院、どちらがいいのでしょうか。ここでの市中病院は、大学医局の関連施設になっていない医療機関・診療科を指すものとします。
それぞれにメリット、デメリットはありますが、山本先生が感じている大学医局に所属するメリットを伺えますか。
山本先生
大学医局の良さは、どのような将来像を描いても、ロールモデルとなる先輩医師がいることです。目指す医師像やキャリアに向かって、いつまでに専門医資格を取得して、どの年代で留学をしたり大学に戻ったりすればいいのか。いつまでにこういう手術をしたいとか、こんな研究をしたいとか。同じような悩みを持っていた先輩医師がいるため、相談したときの解決策もリアルなんです。
特に京大は仲間がとても多いですし、他の施設にいても頼れる仲間に相談できる安心感は大きいと思っています。
一人ひとりが目指す医師像やキャリア実現の最適解を具体的に提示しやすいことが、大学医局の魅力だと思います。
安田
お話しづらいかもしれませんが、デメリットを挙げるとすれば、どんなところでしょうか?
山本先生
大学によって事情は異なると思いますが、一般的には勤務先の選択肢は大学関連病院ですので、その数に制限があることでしょうか。
安田
市中病院のメリットはその裏返しで、全国の病院から勤務先を選べる自由度の高さです。北は北海道から南は沖縄まで、先生方のライフプランに合わせた勤務先の選択肢があります。
たとえば、親御さんの介護で地元に戻らなければならないときや、週5日勤務を週4日にしたいといったご希望も多いですね。
また、多くの選択肢から勤務先を選べる分、給与面の希望も叶えられる可能性が高いです。
山本先生
それは大きな強みですよね。逆に医局に所属しないデメリットとしては何があるでしょうか?
安田
一つは、一部を除き市中病院にはキャリアの選択肢が臨床医しかありません。あとは大学病院に比べて珍しい症例や高度な症例の経験が難しいことや、限られた医療機関でしか専門医資格を取れないことです。
民間医局でも、専門医資格を取得できる市中病院のご紹介は可能です。しかし、現在大学医局に所属していらっしゃる先生からそうしたご相談があった場合は、「まずは大学医局で専門医資格を取得してから、市中病院に転職されてはどうですか」「医局内の先生方に不安や不満のご相談をされてみましたか?解決できるかもしれませんよ。それでも解決が難しければ、転職しましょう」とアドバイスをしています。
正直に申し上げると、転職が成立しなければ売上にはならないのですが……(苦笑)。「転職がその先生にとって最良の選択ではないかもしれない」と感じたら、引き止めることも多々あります。先生ご自身にとってベストなキャリアを歩んでいただくためのご支援をすることが、我々エージェントの仕事であると考えています。
山本先生
すばらしいですね。そうやって親身になって相談に乗っていただける存在は、若手医師にとって大きいと思います。
安田
大学医局の方が専門医資格を取りやすい環境が整っていますし、市中病院にはいつでも転職できますからね。
山本先生
おっしゃる通りです。
大学医局の他のメリットとしては、臨床だけではなく、研究や教育方面へのキャリアの選択肢もあります。
長年蓄積されてきた教育のノウハウを利用して、指導力やマネジメント力といったスキルを得られることもメリットだと思います。逆に「教えるのが好きではない」という方は、つらく感じてしまうかもしれませんが……。
また、難度の高い手術症例は母数が少なく、大学病院や関連病院である基幹病院に集約されます。症例経験としての幅が広く、手術教育においても有利だと感じます。
ただ、施設内の人数によって症例が分配されるため、一人当たりの経験数が少なくなるケースもあります。医局内にいても、必ずしもこういった恩恵を得られていないと感じる先生もいるように思います。
安田
医局と市中病院、どちらも一長一短があると言えますね。
キャリアの選択肢がたくさんあることを、特に若い先生方に知っていただきたいです。ご自身にとって「譲れないこと」がわかれば、叶う場所はきっと見つかります。