「女性泌尿器科外来」を日本で初めて立ち上げる
入局当時の推論に確証を得た加藤氏は1986年、当時名古屋大学で講師を務めていた近藤厚生氏の勧めもあり、日本初の「女性尿失禁外来」を立ち上げた。
その後は、泌尿器科と婦人科の境界領域の疾患を扱うUrogynecology を学ぶため、米国と英国に2年余留学する。
その間、国内では女性泌尿器科外来が徐々に増えていった。また、胃薬で代用されてきた抗コリン薬が過活動膀胱薬として認可されるなど、治療水準も向上した。
しかし問題がなかったわけではない。当時の腹圧性尿失禁の手術は、尿道両横泌尿器科のスタッフと(2016年)実績は通算4000件以の組織を糸でつり上げ、尿道と膀胱の角度を調整するステイミー法(針式膀胱頸部拳上術)が主流だった。短期成績は良好だが、糸が切れたり食い込んだりするチーズワイヤー現象のために、数年後に再発する患者が少なくなかった。
加藤氏自身の尿もれも、出産を機に仕事に支障を来すほどに悪化していた。
状況が一変したのは、TVT手術という新たな術式の登場からだ。腟壁から腹部にポリプロピレンメッシュのテープを通し中部尿道をサポートするTVTは、時間が経過してもメッシュの網目に組織が絡まりしっかりと尿道を支えられる。長期成績も良好で、治癒80%、改善10%と、およそ9割に改善傾向が見られた。自身の尿もれもこの手術で改善している。
その後、膀胱や腸管を傷つけないよう足のつけ根にテープを通すTOT手術が導入されると、TVTとともに2泊3日の手術が可能になった。TVT、TOTは傷跡も5mm×2つと目立たず、ようやく加藤氏が目指してきた患者のQOLに配慮した手術ができるようになった。