診断を付けて二次に搬送 開設当初は不安がられた
良雪氏が救急クリニックに興味を持ったのは大学を卒業してから、都内の病院で臨床研修を受けている時だった。救急医療の現場で疲弊する医師たちの姿を目の当たりにして、何か新しい仕組みが必要だと強く感じるようになったという。昼間に病院に来ることができない軽症患者たちが、夜間に受診する"コンビニ受診"の多さも気になった。
クリニックを開設する際に、まず二次救急病院、救急隊としっかりと連携体制を築くことに力を入れた。トリアージと応急的治療に特化する以上、重症患者を受け入れてもらえるバックアップ体制がなければ機能しないと考えたからだ。
「開設前に各病院を訪問し、重症患者さんを引き受けてもらえるよう依頼して回ったのですが、当時30歳という若さもあり『本当に大丈夫なんか?』と不安がられることも少なくありませんでした。何度か患者さんを送るうちに、やっと信頼してもらえるようになりました」
確かに30歳といえば、後期研修や専門医研修の年齢と同じである。
いおうじ応急クリニックではCTなどの放射線機器以外の検査機器は一通りそろえており、二次救急病院に送るか送らないかを判断するだけでなく、搬送先の病院での円滑な治療できるよう、必ず想定される病気の鑑別診断まで行ってから患者を送っているのが特徴。その診断力の高さは、受け入れる二次救急病院の医師からも一目置かれている。
また松阪市には、地域特有の問題として、夜間・休日に診療する小児クリニックがほとんどないことが挙げられていたが、いおうじ応急クリニックが小児から成人まで、全身疾患に幅広く対応し、結果的に二次救急への搬送も減らすことができた。
さらに小児科では、結果的に軽症とされる場合でも、救急車を呼んでしまうことが多いことが分かったので、良雪氏は母親向けに小児医療に関する講座も始めた。
どんな時に救急車を呼べばよいのか、小児疾患の正しい知識を母親に身に付けてもらう地道な啓蒙活動で、さらに出動件数を減らすことに貢献している。