成人先天性心疾患の日本最高齢患者を手術
兵庫県東播磨地区の循環器疾患の中核病院として役割を果たす加古川中央市民病院。2016年7月、新たに先天性心疾患手術に対応する心臓血管外科小児部門の診療が開始された。立ち上げを任されたのは、圓尾氏。
開始からまだ間もないが、2017年に入ってからわずか8ヶ月の間に、21例の小児循環器疾患の手術をこなす(8月現在)。しかも、成人の循環器疾患の手術も行う循環器治療のエキスパートとして、成人患者の先天性心疾患にも日々対応する。
全国でも成人の先天性心疾患に対応できる施設は数少ない。先天性心疾患の治療を得意とする小児専門病院でも、成人のための入院設備が整っていないため、手術を受けた成人患者が、術後に呼吸機能が悪くなり対応できなくなったり、成人向けのリハビリを受けられないといったケースが生じている。
一方、一般病院の成人に対応する心臓血管外科でも手術は可能だが、先天性心疾患は、現在の臓器の状況だけでなく過去の手術歴も分からないため、手術計画には無数のオプションを用意しなければならない。リスクも伴うため、先天性心疾患への造詣の深さも問われ、対応できる一般病院は少ない。
圓尾氏はまず、小児専門病院で手術を受けた患者が、成人になってから手術をする場合の受け入れ先として、外来をスタートさせた。同院で手術をした成人先天性心疾患の患者の最高齢は66歳。これは聖路加国際病院が集計しているデータベースで、当時最高齢の症例だった。
ファロー四徴症の同患者に、まず肺動脈弁置換の処置を行ってから、経験豊富な成人専門の心臓血管外科医のサポートの下、三尖弁形成術、僧帽弁形成術、凍結アブレーションを行った。
その後、さらに1歳上の67歳のファロー四徴症患者の手術も手掛ける。45年前に執刀した前々教授の手術ノートを参考に、肺動脈弁置換術、三尖弁形成術、右房メイズ手術を実施。ノートの重みを感じながらの手術だった。
成人先天性心疾患の患者は、30代までは小児専門病院で遠隔期手術をするのが一般的。だが、40代以上の患者だと、糖尿病や腎障害への対応も必要で、心臓リハビリも考慮すると、小児専門病院では対応が難しい。潜在的には相当数いるはずなのに、彼らをどこで診ていくのか。
成人と小児、どちらの手術もできる環境の重要性を感じ、圓尾氏は現在の加古川中央市民病院への赴任を決意した。独自の問題意識、そして優れたスキルを発揮し、さらにはチームでの対応も強みとし、今後も力を入れていこうとしている。