口唇・口蓋裂の技術で海外医療支援を10年以上
田邉氏は、入局してから現在まで10年以上続けている活動がある。バングラデシュの医療支援だ。始めてから渡航回数は20回を優に超える。入局時、医局の前教授だった平山峻氏が、バングラデシュ在住の日本人医師の医療貢献を引き継ぐためにNGO活動を始めていた。田邉氏は入局当初、身に付けた口唇・口蓋裂の技術を役立てようと活動に加わり、年1回ほど現地で診療活動を行っている。
バングラデシュは、日本の国土の4割ほどの土地に、人口約1億6000万人が住む。日本とは全く異なる劣悪な環境で、患者のリテラシーもない。口唇・口蓋裂の子供が500人に1人の割合で生まれてくることを考えると、出生率の高いバングラデシュでは毎年5000人ずつ増えていく。それに対し、手術ができる形成外科医は現地には20人ほどしかいなかった。
「最初に訪問した地域は、インドとの国境近くでした。日本の医療グループが来るということで、アナウンスしてもらうと、50人ぐらいの口唇・口蓋裂の患者が来るんです。
1回に4、5日滞在するので、日にちを割り振って手術していました。大勢が手術されないままでいることを聞かされていたので、毎年行きました」
現在は、首都ダッカの大学病院で外来や手術を行うが、地方では子供の年齢も分からず、栄養失調で小さく、野戦病院のようだったと当時を振り返る。
2012年からは、一般社団法人 日本-バングラデシュ医療協会(代表理事:野﨑幹弘 東京女子医科大学形成外科名誉教授)が引き継ぎ、企業支援を受けて活動の幅を広げているが、現地への医療派遣は今も続けられている。
「ずっと行っていなかった地方に行き、その後の状況を知りたいですね。できれば治療もしたいと思いますが、なかなか時間が取れず難しいですね」