抗がん剤のリスク減らすため「術前ホルモン療法」を研究
乳がん手術はこれまで、「全摘」から「温存」へ、そしてより低侵襲な術式へとかじを切ってきた。明石氏が乳がん外科医となってから、まさにその変わりぎわの真っただ中にいた。だが、乳がん手術は再び大きな波が訪れようとしている。乳房再建技術の進歩で、「全摘」という選択肢が再浮上してきたのだ。
「数年前には、温存を実施する患者さんが全体の7割を占めた時期もありました。それが今では、『全摘』と『温存』が共に半数ずつに。全摘後に乳房再建をされる患者さんの割合も約半数に上ります」
全摘には遺伝性乳がんの場合、乳房内再発を予防する利点もあり、乳がん手術の選択肢は、いまだに広がり続けている。
一方、化学療法も大幅に進歩している。薬物療法はがんのタイプによって、抗がん剤、ホルモン剤、分子標的薬の3つを使い分けるが、明石氏は、国立がん研究センター時代に内科医と共同で「術前ホルモン療法」の研究を続けてきた。
「当時は、乳房温存術のための術前化学療法の黎明期でしたが、ホルモン療法でがんが縮小すれば、抗がん剤を使用しなくても乳房温存ができるのではないかと考えました。結果は、ホルモン受容体陽性でホルモン剤が効くはずの乳がん患者さんにおいても、ホルモン剤で縮小する方とそうでない方がいて、ホルモン剤投与前にホルモン剤への効果に対する個人差が分かる方法が何かないかと考えていました」
そんな折、明石氏はゲノムベースの診断検査を提供する米国の会社と接点を持つ。ホルモン療法の効果予測につながるデータがあることを知ると、明石氏は自ら共同研究を持ちかけ、2009年にその結果を論文に発表している。
その検査は「oncotype DX検査」といい、化学療法が奏功する可能性と10年後の再発リスクを予測し、患者の補助療法における術後の意思決定をサポートする検査として注目されている。
また、こうした取り組みは、細胞を遺伝子レベルで分析し、適切な薬のみを投与する、昨今注目のPrecision Medicine※1(精密医療)にもつながっている。