小児患者を集約させ集中治療につなげたい
小児科医だった野澤氏が小児救急医を目指すようになったのは、東日本大震災の後。当時勤務していた草津総合病院は、地域における小児診療のセンターとして機能する病院で、年間2万2000人という膨大な数の小児救急患者を受け入れていた。そんな中、2011年の東日本大震災ではDMAT隊員として被災地石巻に派遣される。「小児科医が災害現場でできることは何か」と考え始めたことが、小児救急医の道を選ぶきっかけとなった。
一方、同じ時期に静岡県立こども病院でPICUを立ち上げた植田育也氏(現埼玉県立小児医療センター 集中治療科長)の元を訪れ、小児集中治療に対応するPICUの見学をした経験も大きな契機となっている。植田氏が語った「本当に治療を必要とする患者が、適切なタイミングでPICUに来られない」という言葉が心に刺さった。
「小児救急患者がICUまでたどり着けないケースがある。それならば必ずしもPICUを開設するだけでは問題の解決にはならないのではないか。大都市ならうまくいくシ
ステムでも、地方で機能させようと思えば、いかに患者を集約させるかを考える必要があります」
2011年に済生会滋賀県病院に移った野澤氏は、救急医としての研鑽を積み、この問題への打開策を探っていた。ヒントになったのはドクターヘリの導入だった。
「小児救急医をヘリで派遣して、そこから直接PICUに患者を運ぶことが解決になるのではないか。実際に滋賀県でどれだけ小児の死亡例があるのか、そのうち"preventable death"がどのくらいあるかを調べていくうちに、このシステムは理にかなっていると確信しました」
そこからの動きは早かった。小児搬送医療の勉強ができる国立成育医療研究センターで経験を積み、ドクターヘリに乗るための救急専門医の資格を取得。2015年に済生会滋賀県病院にヘリが導入されると同時に同病院に戻り、小児救急医を派遣する滋賀モデルが始動した。