泌尿器科医療の先端を行くダヴィンチの女性トップランナー 新村 友季子

医療法人真栄会 にいむら病院
理事長
[シリーズ 時代を支える女性医師]

聞き手/ドクターズマガジン編集部 撮影/緒方一貴

にいむら病院 理事長 新村 友季子

新幹線最南端のターミナル、鹿児島中央駅の前にある病院で、"ロボット"を巧みに操り手術を行う女性外科医がいる。手術支援ロボット「ダヴィンチ」(ダヴィンチサージカルシステム)手術で、全国トップクラスの症例数を誇るにいむら病院の理事長、新村友季子氏だ。にいむら病院は、2013年8月に鹿児島県内に初のダヴィンチを導入。病院の待合室の壁にかかる黒板には、導入から今までの執刀数を掲示する。
―総数573件(2018年2月6日まで)

患者の中に入った錯覚 これなら自分にも使える

ダヴィンチがにいむら病院に導入されたのは、先代の新村研二氏が理事長の時。1980年に開業以来30年以上もの間、ずっと手術指導を依頼している医師のアドバイスによるものだ。秦野直氏。日本にダヴィンチを導入した立役者である。現在は東京医科大学泌尿器科兼任教授で日本ロボット外科学会国際A級ライセンスの資格を持ち、全国でダヴィンチの指導を行う。

「先生は、ダヴィンチが保険に通る前から素晴らしい医療機器があるからと、父や私にぜひこの病院にも導入しようという話をされていました」

百聞は一見にしかず。新村氏は学会場で展示してあるダヴィンチの実物を見た。

「何てこんなにきれいに見えるのだろうって、最初は衝撃でした。血管が洋服のレースのようにきれいで。自分が小さくなって、患者さんの中に入っているような錯覚に陥りました。これなら自分にも使えると…」

術野への没入感は、高解像度三次元ハイビジョンシステムによるもので、10倍以上に拡大された、極めてリアルな3D立体映像を見ながら手術ができる。

2007年に臨床研修を終えた新村氏は、にいむら病院で勤務を始めたが、高額なため、個人病院への導入はそう簡単ではなかった。

2012年に前立腺全摘除術が保険適用になると、先代はその翌年にはダヴィンチの導入に踏み切り、それに合わせ新村氏もダヴィンチの認定ライセンスを取得した。

導入されると、新村氏は秦野氏から直々に手ほどきを受けて経験を積んでいく。民間病院だから絶対に事故は出せないと、特に慎重な操作を指導されたという。

「導入したタイプは、デュアルコンソールのボタン一つで術者を切り替えることができます。先生が右半分の手術、それに倣って私が左半分の手術を進めるような、非常にぜいたくな環境で学ぶことができました」

泌尿器科では唯一の女性 ロボット外科ライセンサー

技を盗むような形でしか上達できない一般の外科手術と異なり、ダヴィンチ手術は技を早く習得できる。新村氏は、日本ロボット外科学会国内B級ライセンスもすでに取得しており、同資格を持つ女性医師は、今のところ泌尿器科分野では新村氏一人である。

にいむら病院でのダヴィンチでの執刀は、新村氏のほか、4人の医師が行っており、施設当たりの症例数は大学病院を超え全国トップクラスで、にいむら病院で学会のライブ手術を行うほどだ。新村氏自身も月平均4~5例、手術を行う。

「最初は、ロボットを使うと言うと患者さんから不安がられましたが、私が動かした通りにしか動かないことを説明し、腹腔鏡の手術もやっているので、それぞれの良さも説明できました」

今や、前立腺全摘除術は、開腹からほぼ1年でダヴィンチに全て置き換わったという。さらに患者は、鹿児島県(離島を含む)だけでなく、九州全域から訪れるようになっている。

保険収載拡大へ 女性医師にこそダヴィンチを

2018年度診療報酬改定で、ダヴィンチの適用が広がる。従来の前立腺がん、腎がんの部分切除術に加え、縦隔内臓器腫瘍(悪性・良性)、肺がん、食道がん、心臓弁形成術、胃切除、噴門側胃切除、胃全摘、直腸切除・切断、膀胱がん、子宮体がん、子宮全摘と全14件に拡大する。国産の手術支援ロボットの市場導入を視野に入れたものといわれているが、国内に約250台導入されているダヴィンチ利用にも弾みが付く可能性が高い。

「ダヴィンチは外科医の"寿命"を確実に延ばせます。秦野先生は60歳を過ぎてからダヴィンチを使い始めています。もう70歳近いですが、全く問題はありません。術野も拡大して見えますし、座ったまま操作できるところが強みです」

外科医の寿命を延ばすのはもちろんだが、女性にも向いていると、新村氏は自らの体験からこう強調する。

「座ったまま力を入れないで手術ができるので、女性医師にとても適した機械です。2年前に転んで足を骨折したことがあったのですが、問題なく操作できました。自転車と一緒で一度使えるようになると、ブランクがあってもすぐに取り戻せて、早く復帰できると思います」

新村氏は特に女性医師に、ダヴィンチの良さを伝えていきたいと考えている。

若干30代で病院理事長 「女性」を活かした泌尿器科

患者のニーズを優先した医療を行うために新しい技術を積極的に導入する先代の方針を基本的に引き継ぎ、30代という若さで経営手腕も振るい始めた新村氏。

2014年に、自らの発案で「女性泌尿器科外来」を創設し、自ら診察している。患者の大半が男性、医師も女性が全体の5%程度しかいない世界で、女性泌尿器科外来を作ったのは、まさに女性医師だからこそできることである。

「泌尿器科というと男性の診療科というイメージが強いですよね。でも女性泌尿器科外来ができると、患者さんの家族からの紹介で来るようになったんです。最初はそこまで計算していませんでした。間質性膀胱炎も男性ドクターには相談しづらいようで…」

骨盤臓器脱に対しては、安全性が高く新しい術式を導入する。TOT(Trans-Obturator Tape)、TVM(Tension-free Vaginal Mesh)のほか、腹腔鏡を使ったLSC(Laparoscopic Sacral Colpopexy)も行っている。

理事長に就任してからは、多職種連携のチーム医療も推し進める。2016年に開設した「女性のための骨盤底筋体操外来」もその一例だ。この外来は、看護師・理学療法士による専門外来で、医師の診療後に、看護師・理学療法士が個別に指導する。女性患者への対応は、問診・診療・検査など女性スタッフが対応するようにしているのも、新村氏ならではの発想だ。

国内初UroNav導入 「チームにいむら」を先導する

2017年に国内初のMRI -超音波画像融合前立腺針生検システム「UroNav(ウロナビ)」を導入した。従来、前立腺がんの針生検は超音波画像を見ながら行い、8~12本の針で細胞を採取するのが一般的で、経験と勘が必要だった。それが、MRIと超音波の両方を活用し前立腺腫瘍の正確な位置を把握できるUroNavの導入で、前立腺がんの早期発見率向上と再生検率を低下させることができる。

「こういった新しい機械を導入できるのも、優秀な放射線科医がいるからこそです。外科にとって、放射線科と病理、麻酔科はとても大事なのです」

ホームページの冒頭にあるように、まさに「チームにいむらにおまかせください」なのだ。

現在、にいむら病院は、MRIを新規導入し手術室も広げるため新棟増築を進めている。完了するのは秋頃の予定だ。ダヴィンチの女性トップランナーとして、また女性理事長として、新村氏は泌尿器科をリードしていくに違いない。

※こちらの記事は、ドクターズマガジン2018年4月号から転載しています。
経歴等は取材当時のものです。

P R O F I L E

にいむら・ときこ
2005年 鹿児島大学医学部 卒業
     鹿児島市医師会病院 臨床研修
2007年 にいむら病院 医師
2013年 ダヴィンチ サージカルシステム外科医ライセンス取得
2015年 にいむら病院 理事長
                 救急集中治療科・小児救急部門

資格
日本泌尿器科学会専門医・指導医
日本ロボット外科学会国内B級ライセンス