目の前の患者を救いたい 臨床での疑問が研究シーズ
2018年4月から勤務する国際医療福祉大学では、海外からの学生も受け入れて指導に当たっている。研究を進める上で大事なことは、「常に疑問を持つこと」だと河村氏は話す。卵胞活性化療法を発見したのも、もともとは卵胞が1000個以下で閉経することに疑問を持ったからだった。
「臨床でも自然現象でも『どうしてだろう?』と疑問を持つ姿勢が大事。常に疑問を掘り出し、研究シーズを探索しようというマインドを持っていなければ、新たな発見はできません。そしてただ疑問を持つだけでなく、そこからさまざまな技術やデータを使って解明する方法を探すことが大切なのです」
現在も研究を進める河村氏が目指すものは2つある。一つは早発卵巣不全までには至っていないが卵巣機能が低下している「プアレスポンダー」(卵巣刺激に対する反応が乏しい)に対する治療法を確立すること。
卵胞活性化療法では、卵巣を体外で培養する際の細分化によって、Hippoシグナル※ が物理的な刺激に反応し、卵胞の発育を促進させることが分かった。既存のホルモン剤では、原始卵胞から排卵直前までの4~6ヶ月の間のうち最終段階の約2週間である胞状卵胞発育にしか効き目がなかったが、Hippoシグナルの抑制では初期の卵胞の発育が促進される。卵胞の少ないプアレスポンダーに対してHippoシグナルを抑制する治療を行えば、効果が期待できる。実際にスペインの共同研究グループでの臨床試験では、妊娠率が向上するなど成果を上げている。
もう一つは再生医療への取り組みだ。卵胞活性化療法は、すでに卵胞がなくなってしまった患者に対しては効果がない。
「組織検査で卵胞がないと分かれば、卵胞活性化療法は無効で、自らの卵子による妊娠を諦めざるを得ません。今後は再生医療、すなわち卵子の再生という手段も考えていかなければならないでしょう」
臨床医として"患者を救いたい"という強い想いが、研究を進める原動力になっている。
※Hippoシグナル:細胞増殖や生存を制御するシグナルで、物理的な刺激によって生物学的な変化を引き起こす