救急との密接な関わり 疲弊する救急の解決策に
病院側にとっても地域の在宅医療ネットワークと連携するメリットは大きい。なぜなら在宅医療と救急医療は密接に関連しているからだ。
救急医療で全国的にも知られる八戸市立市民病院。同病院をはじめとした圏域の病院では、数年前から救急搬送される患者にある傾向が表れていた。それは、高齢者の施設からの搬送が著しく増えているのだ。その数は高齢者福祉施設からだけでも年間850例を超える。その中には施設での看取りを希望していた人も数多く含まれていた。在宅医療が推進され、介護施設が増加したことで、救急医療に弊害が出てきているのだ。
本人や家族の望まない延命処置によって、医師たちのモチベーション低下につながるだけでなく、搬送件数が増加すれば小児や外傷など本来救急で治療が必要な患者たちの受け入れができなくなる場合もある。2017年の八戸市立市民病院の救急搬送件数は前年から1割増加、今後、高齢化に伴いその割合は増えることが予想される。
その原因が在宅医療で看取りができていないことにあると気付いた小倉氏は、2015年に介護施設の職員を対象に「在宅医療と看取りに関するアンケート」を実施。市内の100施設への調査結果の分析から、看取りに関する知識や経験がないことが職員たちの不安要因になっていると分かった。
そこでオリジナルの看取りの手引きを作成し、研修会を開催。具体的な対処法を教育することで、不要な救急搬送を防ぐのが狙いだ。
「研修によって介護職員たちが"自分たちでできる"と思ってもらえることが大事。これまで救急と在宅は結びついていませんでしたが、地域医療を担うためには、お互いに支え合って負担を減らすような取り組みをしていかなければなりません」
家庭医の役割は高齢者向けの在宅医療だけにとどまらない。例えば気管切開や経管栄養が必要な脳性麻痺患者は、成人してからも通院し続けなければならず、家族の負担は大きい。在宅医療に携わる医師の多くは内科や外科が専門で、小児科医だけでは対応できないのが実情だ。その点、家庭医であれば内科も小児科もカバーしているため、小児患者の在宅治療にも対応することができる。
小倉氏は家庭医として子育て世代を支援するような仕組みや、生活習慣病の患者がスムーズに診療を受けられるようにするアプリケーションの開発など、新しい取り組み作りにも力を入れている。
「私が目指すのは地域共生社会の実現です。そのために高齢者だけでなく、子育て世代や介護をしながら働く世代、どの世代の人たちも自分らしく、地域で生活していけるように支えるのが家庭医の役割。家庭医にとっては地域全体が"一人の患者"なんです」