研修医時代から一貫して小児発達学に携わる
友田氏は熊本市で生まれ育ち、熊本大学医学部を卒業した。
大学時代は漠然と小児科医になりたいと考えていたが、ちょうど同大学に新しく小児発達学講座ができたことを知り、2期生として入局した。1987年のことだ。
友田氏は、この新しくできた講座で、小児の成長発達に関わるあらゆる小児疾患を診ていった。
研修医時代は熊本市民病院NICUで新生児を、北九州市立総合療育センターでは、脳性麻痺や神経変性疾患、亜急性硬化性全脳炎など小児神経疾患の患者を担当。
そして、友田氏の進路を決定づける患者と出会う。
研修医として、鹿児島市立病院に勤務していた頃、脳内出血の子どもが救急車で運び込まれた。
「全身には親から受けたと思われるたばこによる火傷の跡がありました。救命措置を施し、3日間、ICUで治療しましたが、残念ながら助けることができませんでした。自分の子どもになぜこんなことをするのか。何とかしたい。その一念でマルトリートメントの研究を始めたのです」
熊大の助手になって10年目になろうとした時、元上司、三池輝久教授からの勧めで米国に留学。
Harvard Medical School精神科学教室の准教授で、マサチューセッツ州McLean Hospital発達生物学的精神科学研究プログラムの責任者でもある、Martin Teicher氏と研究を始めることになった。そこで、彼から大きな影響を受ける。
Teicher氏らと、マルトリートメントで子どもの脳のどの部分にダメージを受けやすいかを調べていった。
1500人の男女に体罰の経験を聞き取り調査。体罰経験者23人と体罰経験のない22人の脳をMRIで撮影、VBM(Voxel-based morphometry)法で解析していくと、体罰経験者の前頭前野の容積が小さくなっていたことが分かったのだ。
脳の前頭前野は学習や記憶と深く関わっていて、その周辺にある海馬や扁桃体の働きを制御する役目も担っている。
扁桃体は、情動・感情についての情報処理を行うため、前頭前野が小さくなると情動・感情をコントロールしづらくなる。
マルトリートメントが脳に影響を及ぼしていることを証明している。
Teicher氏は、児童精神科医でありながら、小児神経科医でもある。数学とコンピューター科学の博士号も取得しており、学際的な研究も数多く進めていた。
「多才な先生でした。留学を終えた後にも交流は続き、今でも共同研究者です。Teicher先生の学際的な研究姿勢に私は大きな影響を受けたと思います」
2011年に、福井大学から「子どものこころの発達研究センター」への招へいの話が舞い込む。
「留学先から熊大に戻り、初代教授だった三池輝久先生が退官され、今後のことを考えあぐねていた時でした」
自分のライフワークにピタリと合致する勤め先だが、縁もゆかりもない土地だった。迷いに迷った末、友田氏は横井小楠という郷土の偉人を思い出した。
「熊本藩士で儒学者だった横井小楠は、幕末の頃に福井藩主の松平春嶽に頼まれ、若い藩士の指導で福井に出仕しました。年も同じ50。私とも縁があるのかもしれないと福井行きを決意しました」