質の高い医療で信頼を得る 産婦人科医との連携
吉岡氏が恵寿総合病院で家庭医療科の診療をするようになって10年がたつ。開設当初は家庭医療科の存在意義に疑問を呈する職員もいたが、今ではその役割が理解され、各診療科との連携も進んでいる。
その中で特に連携が強化されているのが産科・婦人科の診療である。医師不足に悩む産婦人科分野で、家庭医が子宮頸がん検診などの予防医療や妊婦のプライマリ・ケアを担う意義は大きい。その分、産婦人科医の負担が軽くなり、より専門性の高い医療に集中できるメリットもある。
「common diseaseのエキスパートである家庭医にとって、多くの女性が抱える生理や妊娠に関わる症状を診療することは必要不可欠。そうしたありふれたものこそ家庭医が診る意義があります。若い年代の女性は特に、産婦人科の受診に抵抗を感じる人もいますから、総合診療科に風邪で受診したついでに婦人科の悩みが相談できれば、気軽に感じてもらえるのではないでしょうか。家庭医であれば身体疾患のある患者に妊娠・出産を見据えたアドバイスもできます」
吉岡氏の下では、妊婦健診も含めた女性診療、乳児健診まで行われる。
「私自身は妊婦健診から分娩まで行っていますが、日本で家庭医がそこまでできる必要はありません。ただそれができれば家族全体を診る上で強みになり、できないにしても家庭医は基本的なウィメンズ・ヘルスケアを提供できるように産婦人科領域も含めて研修を受けるべきです」
日本では低い子宮頸がん検診受診率に代表されるように、多くの女性が医療の恩恵を十分に受けられていない。その一因は女性の医療を包括的に担当する医療者があまりいないからではないかと吉岡氏は考える。
家庭医は子供の受診を通して母親に接することができる。例えば子供の予防接種や風邪で来院した際に、次の妊娠へ向けてのアドバイスをしたり、妊娠の希望がない場合は避妊の指導や処置を提供。妊娠高血圧や糖尿病を発症した人に対してはそのフォローをしたり子育てや家族関係のストレスが健康に影響していないかモニターしたりと、女性に必要な医療を提供できる立場にある。
恵寿総合病院では産婦人科医らからのニーズもあり、家庭医がプライマリ・ケアを担当し専門医につなぐ連携が、スムーズにとられている。初めは「なぜ家庭医が産婦人科診療をする必要があるのか?」と疑問に思っていた医師たちも、連携して患者を診るうちに、それまで産婦人科や他科では対応困難であったメンタルを含むさまざまな女性の健康問題に対応できる家庭医に信頼を寄せるようになり、今ではなくてはならない存在として協力関係を築いている。一度協働すれば、他科の医師にとっての大きな助けとなるのが家庭医なのである。