白石区の医療問題を分析 都市部でできる地域医療を 佐藤 健太

医師のキャリアコラム[地域に根ざした医療に奮闘する医師たち]

北海道勤医協札幌病院 副院長

聞き手/ドクターズマガジン編集部 文/安藤梢 撮影/船戸俊一

田舎やへき地だけではない“コミュニティー・メディスン”

地域医療の魅力を伝え、研修医を育てて送り出すことに意義がある。

大学時代に診療科ごとに細分化された実習を受け、どこか「専門外のことは関係ない」という雰囲気に違和感を覚えたという佐藤 健太氏。もともとへき地医療に興味があったこともあり、札幌にある北海道勤医協中央病院へ見学に行った。

「まだ総合診療が“外来を振り分ける診療科”のように思われていた時代。他科の専門医から信頼されて、対等に連携を取っている姿を見て驚きました。当時としてはかなり珍しかったと思います」

実際に地域研修ではへき地医療も経験し、面白さを実感した。しかし、そうしたへき地医療の面白さを都市部の研修医は、ほとんど知らないまま過ごしていく。それならば自分がへき地に行くよりも、都市部の病院で地域医療の魅力を伝え、研修医を育てて送り出すことに意義があるのではないか。そうした思いで勤医協に勤めて14年になる。

現在勤務する勤医協札幌病院は札幌市白石区にある。札幌市に10ある区のうちの一つで、市の中心部からのアクセスがよく人口は21万人を超える。

「地域医療の地域というのは田舎やへき地の意味ではなく、家庭医療学では“コミュニティー”に当たるもの。つまり文化的な背景が共通している人々の集まりに対する医療を、“コミュニティー・メディスン”と言うのです。だとしたら自分が札幌で、家庭医としてできる地域医療は何だろうと考えるようになりました」

佐藤氏が考える家庭医の存在意義は、カバーする医療圏の人々の日常疾患をきちんと診られること、それが悪化しないように予防医療を実施すること、そして慢性疾患をコントロールしながらコミュニティーの中で過ごせるようにしていくことである。

地域の特性・問題を把握し、来院しやすい診療環境を作る

そのためにはまず地域特性を知らなければならない。白石区は札幌市の10区内で最も住民の平均寿命が短く、がんや心筋梗塞、脳卒中の死亡率が高い。貧困から低栄養に陥る子供も多く、健康指標が著しく低い地域となっている。

「都市の規模や人口密度だけではなく、その地域の歴史や住んでいる人たちの生活を踏まえて、そこで発生する疾病を理解して先手を打つのが地域医療。それができるのは家庭医以外にはいないんです」

16歳未満での出産も多く、低体重で生まれた乳児が成長して糖尿病になる確率が高いことも分かった。大人になって糖尿病が重症化した患者を初めて診察しても遅い。そこで家庭医が予防のために小児科医や産婦人科医と連携を取って、出産後からフォローするようにした。個々の患者に対して総合的に、継続して関わることができるのも家庭医の特徴だ。

また、高齢者層が少なく、労働世代が多い、乳幼児〜学童が多い発展途上型の人口ピラミッドを形成している白石区で、区外に働きに出ているメインとなる労働世代の受診を促進するため、土曜診療や夜間診療に積極的に取り組むように病院側に働きかけた。同院では日曜日に検診が受けられる特別枠も設けている。

白石区の貧困を徹底的に分析 とりこぼしのない医療提供を

家庭医の診療では、例えば風邪や高血圧などのcommon diseaseを、各診療科の専門医よりも深く診ることができなければならないと佐藤氏は考える。その上で特殊な病態で精査が必要な場合や、専門治療が必要な人を見極めて専門医につなぐことが求められる。佐藤氏が家庭医として診療をする中で、本当に専門医への紹介が必要な患者は「1%もいない」というのが実感だ。精神疾患や併存疾患がある場合や、経済的な問題を抱える患者など、家庭医だからこそ総合的にケアできる症例は多い。さらに短時間に多くの患者を、質をキープしたまま診療するためには、患者のモチベーションを高め、自主的に健康的な行動ができるよう促すスキルが重要になる。

「その地に根を下ろして地域特性を知り、共通する健康問題を見ていくと、地域によってcommon diseaseの分布は全く違います。それは大学からの派遣で1、2年地域医療に携わっただけでは分からないこと。家庭医としての感覚がつかめるようになるには、10〜15年はかかります」

今後目指すのは、まだ病院にアクセスできていない人たちとつながるためのネットワーク作りだ。佐藤氏は白石区の統計データ、関係者への聞き取り、同院の外来患者への調査データをマップ上で重ね、地域が抱える「社会的問題」を分析。白石区は大正時代に中央区すすきのから遊郭が移転され、戦後には川沿いに外地からの引揚者が住み着いた歴史的背景があり、社会的階層の低い人が集まる地域になったという。そうした背景を踏まえて、生活困窮者が病院にたどり着けていない現状を明らかにした。

札幌市白石区を支える北海道勤医協札幌病院。

「ただ病院で患者を待っていても、手遅れになる事例は増え続けるでしょう。貧困を見逃さずに医療が介入できる仕組みが作れれば、受診できずに亡くなる人は減らしていける。そのために必要なのが、医療の枠を越えた連携です」

すでに複数の医療機関や大学、介護福祉組織、保健師、社会活動に取り組むNPO法人と情報交換し、ネットワーク作りに向けて動き出している。

P R O F I L E
プロフィール写真

北海道勤医協札幌病院 副院長
佐藤 健太/さとう・けんた

2005年に東北大学医学部を卒業。学生時代に千葉県流山市にある東葛病院を見学し、外来から病棟、往診、産業医活動と"地域の患者を何でも診る"医師の姿が印象に残り総合診療科の道を選ぶ。2007年に北海道勤医協中央病院に勤務後、旭川、釧路の関連病院を回り、道北にある診療所でへき地医療にも携わる。2011年から北海道勤医協札幌病院の内科医長、2016年から副院長を務める。日本内科学会 総合内科専門医。日本プライマリ・ケア連合学会 家庭医療専門医・指導医。

※こちらの記事は、ドクターズマガジン2018年10号から転載しています。経歴等は取材当時のものです。

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