新生児医療のその先へ 成育段階を支える診療科
新生児医療が軌道に乗ったタイミングで、網塚氏が取り組んだのが「成育科」の立ち上げである。2016年に総合周産期母子医療センター内に新たな診療科として成育科を開設。救命はできたものの後遺症を抱えた患者たちは、成育過程でさまざまな問題に直面する。これまでも新生児科の医師が退院後の子供たちを個別にフォローをすることはあったが、それを専門とする部門はなかった。
「新生児医療が充実した今だからこそ、治療を終えた子供たちの発達や生活を支えていく必要性と責任を感じました」
これは時代の流れとも合致している。成育科を立ち上げた2016年には児童福祉法の改正により医療的ケア児への支援が盛り込まれ、2018年12月には、妊娠期から継続した医療と福祉の提供を目指した成育基本法が成立した。
成育科としての活動で大きな役割を占めるのが、NICU退院児のサポートだ。特に超低出生体重児の発達フォローでは、単に発達を評価するだけではなく、必要に応じて地域支援に結びつけ、就学に向けたアドバイスをしていく。脳の可塑性が高い未就学期にリハビリテーションの介入ができるよう、的確なタイミングで指導も行っている。
「なるべく早い段階で適切な支援を受けられるように交通整理をしています。成育科でまず目指すところは就学です。例えば、脳性麻痺で車いす生活の子供ならば小学校のバリアフリー化が必要です。そのためにはいつまでにどこに相談に行けばいいのかなど、医療と福祉・教育をつなぐ橋渡し役も担っています」
まだスタートしたばかりの診療科だが、網塚氏が目指すのは総合周産期母子医療センターに成育科の設置が必須になること。
「近年、医療的ケア児が増えている中で、必ず枕ことばのように『医療の進歩により、これまで助からなかった命が助かるようになった』と言われます。でも、新生児医療は政策医療の一環として発展してきました。それであれば、医療的ケア児の支援や、小さく生まれた超低出生体重児のお子さんたちへの支援にもまた政策医療としての責任があるはずです。いかにして、彼らを支援し、かつ彼らへの支援の充実を図るか、その道を探ることこそが成育科に課せられた使命であると考えています。そして、新生児医療の当事者だからこそ、できる支援・しなければならない支援があります」