活躍の場が広がる感染症医 社会に関わる医療を担う
感染症の治療では、マラリア、結核、HIVなど特殊な疾患で高い専門性が求められるのはもちろんだが、実はありふれた疾患への対応こそが重要だと大曲氏は言う。患者の全身をトータルで診る、総合診療的な見方が欠かせない。だからこそ感染症医を目指す若い医師たちには、内科や救急、小児科といった全身診療ができる研修を受けてからサブスペシャリティーで感染症科を選ぶことを勧めている。
「専門家が必要なのは事実ですが、感染症科医はいわば内科医の延長です。日本では一般的な感染症教育がされてこなかったので、例えば風邪の診断については医学部ではほとんど習わない。それが抗菌薬の過剰処方の問題にもつながっています。感染症にはCommon Diseaseが非常に多いので、そうした疾患への対応も含めて全て診る必要があります」
感染症に興味を持つ若い医師たちは増えてきているものの、まだまだなり手が不足しているのは、「感染症医のキャリアパスが描けない」ことが理由の一つであると大曲氏は分析する。
例えば感染症学が進んだ英国では、1800年代にはジョン・スノー博士やナイチンゲールなど疫学分野で優れた医療人を輩出し、疫学や感染学を重視することで国が強くなっていった歴史がある。
「日本でまだ感染症医の役割が確立されていないのは、社会として感染症学の重みを感じてこなかったからでしょう。だからこそ、感染症医の活躍の場が広がっていることを示していく必要があります」
国立感染症研究所やWHOといった政策に関わるポジションなど、感染症医の専門性を活かせる場は病院内にとどまらない。
「私自身、臨床の一分野として見ていたら行き詰まっていたかもしれません。でも感染症は社会との関わりが強い診療科。そうした関わりのなかで自分たちの存在意義が見えてくるのです」
国際感染症センターは2017年4月にWHOコラボレーションセンターに認定され、ますますその重要性が高まっている。
「センターに赴任した当時は、『アジアでの感染症の拠点をつくりたい』と言ったら笑われましたが、そこを目指して頑張っています。国際的な感染症対策をはじめ、海外への支援、新興・再興感染症対策、薬剤耐性対策など世界的な広がりがあるなかで、日本はしっかりと役割を果たさなくてはなりません。今後は、感染症を専門としない人たちにも感染症医療の重要性を伝えていきたい」