ヘリポートから検査室へ直行 一秒でも早く治療を始める
2010年、兵庫県豊岡市にある公立豊岡病院に、北近畿エリア初となる救命救急センターが開設された。「但馬救命救急センター」がカバーするのは、京都北部から鳥取東部までのいわゆる"医療過疎地"と呼ばれる広い医療圏だ。年間に受け入れる救急搬送は1万6000件。そのうちドクターヘリでの搬送は2000件を超えている。
「ドクターヘリの導入後、救命率は向上しています。院内体制の整備にも力を入れてきた成果です」
そう話すのはセンターの立ち上げから関わる救急科の番匠谷友紀氏。救急症例を一手に引き受ける救命救急センターとして、いかに多くの患者を救うか。"最後の砦"が果たす役割は大きいという。
「通常、ドクターヘリで搬送された患者さんは救急初療室に入り、処置を終えてから検査をしますが、私たちは搬送中に初療をして、到着後はCT室に直行します。他科との連携が必要ですし、院内の受け入れ態勢も整えておかなければならない大変さはありますが、確実に時間短縮につながり、救命率も上がっています」
フライトドクターから検査の指示が入れば、5分後には検査を始められる体制が整っている。そうした努力が実を結び、同センターでは開設以降、一度も救急搬送を断っていない。
フライトドクターが1日にドクターヘリに乗る回数は平均5、6回。多い時には1日10回以上も乗ることがある。現在、26人いる救急科の常勤医のうち17人が月に4、5日の当番日を受け持つ。今でこそ全国から学びに来る若手医師たちが引きも切らない同センターだが、開設当初はわずか9人の医師で対応していた。
「当直日には救急搬送からウオークインで来た患者さんまで、全ての症例を一人で診ていました。当直明けがドクターヘリの当番日だったので、全部終わるころには疲れ果てて家に帰る体力さえも残っていないことが多々ありました」
言葉とは裏腹に、そう振り返る表情は不思議と明るい。
「つらいというよりは楽しかったです。手術をする機会も増え、それまでアシストがメインだった血管内治療も自分でやるようになり、できる手技が増えていく充実感がありました」
忙しい日々ながらも救急医としての力を着実につけ、夢中で走り続けた番匠谷氏。彼女のモチベーションになっていたのは、どんな想いだったのだろうか。