「何でも診る」診療で患者と家族の力になりたい
訪問診療では8km圏内を対象に、2人の常勤医師で60~70人の患者を担当している。草野氏のモットーは、家庭医として「何でも診る」こと。末期がんや認知症など在宅では受け入れが難しいとされている疾患にも対応し、腹水穿刺、留置カテーテルの管理、褥瘡処置、緩和ケアまで行う。患者の自宅である程度まで治療ができるように、持ち運びができるX線、エコー、心電図検査用の機器を用意している。開設からの1年で、すでに予想以上の手応えを感じていると草野氏は話す。
「全国のデータでは、訪問診療クリニックにおける看取り件数は年間平均3件といわれています。ここでは年間10件くらいはあるだろうと考えていたのですが、昨年は42人をご自宅で看取りました」
草野氏が「何でも診る」ことを大事にしているのは、自身の経験が影響している。高校3年生からの8年間、自宅で父親の介護をしていたのだ。脳梗塞とパーキンソン病を患っていた父に対して、思わず声を荒らげてしまったこともある、と振り返る。
「今の私が困っている患者さんやご家族の力になりたいと思うのは、その頃のつらかった体験があるからです」
草野氏の診療の基礎になっているのは、家庭医療学。患者一人一人が抱える背景や生活環境、希望を聞き出したうえで診療のゴールを設定する。それができないと、患者や家族が本当は何に困っているのかを見落としてしまうからだ。
「患者さんのご自宅から段ボール2箱分の薬が出てきたことがあります。『こんなん分からへんわ』と。そうした背景を知らずに、症状が良くならないからと、さらに薬を追加してしまっては、適切な治療はできませんよね」
そのような患者に対して、どうしても必要なもの以外をカットしたところ、症状が改善したケースもある。「何でも診る」ことで、複数の疾患を総合的に診断できるのだ。