データをもとに「見える化」 真の医療ニーズに応える
医師になって3年目で赴任したのが、地域の「かかりつけ病院」として機能していた五條病院(現・南奈良総合医療センター)。
「高齢の患者さんをたくさん診るうちに、病気の治療だけでは解決できない問題が多くあると分かりました」
そのヒントになるのではと、北海道にある市中病院で家庭医療を実践していた佐藤 健太氏のもとへ見学に行った。家庭医療では、疾患だけでなく患者の家庭環境や社会的背景、趣味や生き方まで、全体像を捉えてアプローチをしていく。「これは面白い」と思った天野氏は、そこから独学で家庭医療学を学び、家庭医療専門医を取得した。
「五條病院にはへき地の診療所の所長を歴任された先生が何人もいました。地域医療の現場で必要な知恵や医師としての姿勢を教わったことで、自分の診療スタイルをつくっていきました」
さらに、自身もへき地にある野迫川村診療所の所長になると、地域医療の縦のつながりがはっきりと見えてきたという。野迫川村の人口は約360人で、村内の高齢者のほぼ全員が診療所を受診している。「患者さんの多くは80歳以上で、ほとんどが独居。ご近所さんにサポートをしてもらうなど、地域の中での支え合いが欠かせません」
急病や、病状悪化の際は南奈良総合医療センターへ搬送される。退院して自宅に帰るには、地域事情をよく知った医師が入院中から関わるほうがスムーズだと考えた。
そこで、天野氏が取り組んだのが、診療所運営の改革だ。週4日勤務を3日に減らし、その分を病院勤務に充てたのである。
「診療所を予約制にして、医師が必要な日数を『見える化』したところ、週3日で対応できることが分かりました。減らした1日を南奈良総合医療センターでの勤務に回すことで、野迫川村からの救急搬送や入院している患者さんをケアする時間を増やしたのです」
診療所の稼働日数が減ることに対して、地域住民からの反対はなかったのだろうか。
「村役場の方たちと何度も話し合いを重ねました。週3日になっても医療の質は下がらないこと、緊急時は救急搬送で対応できることを、データを示しながら説明しました」
医師がいない日は訪問看護を導入し、それにより地域の在宅医療が充実した。また結果的に、診療所の運営が黒字に転換するうれしい効果もあった。天野氏が取り組んだ「業務内容の見える化」は勉強会等で共有され、他のへき地診療所でも導入が検討され始めている。