患者の選択肢を増やすべく多職種連携で取り組む医療
総合診療医は一般内科医の一人として捉えられることもあるが、髙橋氏は内科医との違いをこう語る。
「総合診療医は、疾患だけを診るのではありません。患者さんの個性や生活背景を踏まえて、患者さんと家族にとって最善な治療方針をつくり上げて実践する。私たちは、そういう患者中心の医療を体系的に学んでいます」
髙橋氏は、秋田大学アカデミック総合診療医育成プログラムにて、新専門医制度下初の修了生として総合診療専門医となった。患者に「ウチでは診られません」と言わなくていいのが総合診療医の強みだと言うが、“総合”の“専門”という矛盾を孕む言葉に戸惑いはある。医師としてのアイデンティティを模索しながらも、患者の人生に寄り添うこの仕事にプライドとやりがいを感じている。
「患者さんの人生に寄り添おうとするなら、その人を好きになって、強く関心を持って関わることが大事だと思います。患者さんとの関係性は、総合診療医の財産。小児から高齢者まで、あらゆる患者さんを診るので、人生のどんなフェーズにも関われるのが醍醐味です」
高齢化が進む一方のこの国では、病院や介護施設の受け入れが限界を超えつつある。加えて、秋田には医療へのアクセスが困難な地域も多い。病院や施設ではなく、自宅で最期を迎えたいと願う人たちのためにできることは何か――。その問題意識の原点には、髙橋氏が初めて在宅看取りを行った患者の存在がある。患者は中心静脈カテーテルや胆管ドレナージなど医療的な処置も多かったが、本人と長男夫婦の意向により最期まで自宅で過ごした。髙橋氏は主治医として訪問看護や包括ケアのスタッフと連携し、初診から看取りまでを初めて一人で担当した。
「ご家族がとても献身的で、訪問診療はいつも温かい雰囲気でした。最期まで家で看るという強い覚悟を持っていらっしゃるご家族はなかなかいないので、貴重な経験でした」
一方、訪問診療を提案しても、施設や病院での治療を希望する家族も少なくない。訪問診療の情報がなく、イメージがわかないこともあるが、どんなにサポートを受けたとしても家族の負担が大きいことに変わりはないからだ。しかし、本当は家で過ごしたくてもできない人がたくさんいるに違いない。
「患者さんや家族が本当はどうしたいのか、それが選べるようにしたい。患者さんが選択肢を持てることが大切です」