手術時期の病院の過失を認定
裁判所は、(1)の因果関係について、本件手術が骨折部を切開して固定する術式であったこと・左下腿部に感染したMRSAが血行性で右大腿部に移行した可能性が高いことから、いずれにしても本件手術とMRSAの感染との間には因果関係があると認定した。また後遺障害については、右下肢機能全廃については認めなかったものの、右下肢11cmの短縮と右膝関節の著しい機能障害について因果関係を認めた。
(2)の過失については、本件手術の固定法、及び逆行性打釘法という手術手技がとられたことは、やむをえなかったものとし、その判断において誤っていることとはできないとして、この点の過失は認めなかった。
しかし、手術の時期については、以下のとおりY病院に過失を認めた。つまり本件当時、MRSAなど院内感染が大きな問題となっており、MRSAは特に免疫能が低下している重傷患者にとっては重篤な症状を引き起こす危険があり、しかも確かに増加傾向にあった。そのため、Y病院でも院内感染対策委員会においてMRSA感染対策マニュアルを作成するという事態にいたっていたこと・これに加えてY病院は、救命救命センターとして周辺地域から多数の重症患者が救急車で搬送されるという状態だった。これらの状況から、同院は本件右大腿骨骨折の治療にあたるについて、XがMRSA等の細菌に感染し骨髄炎に罹患することを未然に防止すべく、手術を実施すべき時期等の判断において細心の注意を払って治療にあたるべき注意義務があったところ、MRSA感染の危険性がきわめて高く術野または血行性の骨髄炎を起こす可能性がある時期に手術を施行したことが、かかる注意義務に違反したとしてY病院の過失を認めた。損害の認容金額は、60,959,180円であった。