被上告人(医師)の注意義務違反を認める
医療水準は医師の注意義務の基準(規範)となるべきものであるから、平均的な医師が現に行っている医療慣行とは必ずしも一致するものではなく、医師が医療慣行に従った医療行為を行ったからといって医療水準に従った注意義務を尽くしたとただちに言うことはできない。
医薬品の添付文書(能書)の記載事項は、当該薬品の危険性(副作用等)についてもっとも高度の情報を有している製造業者、または輸入販売業者が投与を受ける患者の安全を確保するために、これを使用する医師等に対して必要な情報を提供する目的で記載するものであるから、医師が医薬品を使用するにあたって右文書に記載された使用上の注意事項に従わず、それによって医療事故が発生した場合には、これに従わなかったことにつき特段の合理的理由がない限りは当該医師の過失が推定されるものと言うべきである。
鑑定人によると、急激な血圧低下は通常、煩雑に、すなわち1ないし2分間隔で血圧を測定することにより発見しうるものであり、このようなショックの発現はどの教科書にも頻回に血圧を測定し、心電図を観察し、脈拍数の変化に注意して発見すべきと書かれており、他面、2分間隔での血圧測定の実施は、なんら高度の知識や技術が要求されるものではなく、血圧測定を行いうる通常の看護師を配置してさえおけば足りるものであって、本件でもこれを行うことに格別の支障があったわけではないのであるから、被上告人(医師)が能書に記載された注意事項に従わなかったことにつき合理的な理由があったとは言えないとした。