(大阪高裁平成13年8月30日判決。判例タイムズ1094号207頁掲載)
原判決を取り消し、原告の請求を棄却
二審判決は、以下のように判示し、損害賠償を命じた一審判決を取り消した。
(1)Aが本件手術前にMRSA感染症に罹患していたとは認めがたい。MRSAは常在菌であるから、喀痰から発見されたからといって保菌者であると言えても、それのみでただちにMRSA感染症に罹患していたとは言えない。Aが6月9日に上気道炎を発症していたとしても、発熱のほかは特に異常も認められず、その程度はきわめて軽微で本件手術当日には消失していた。しかも6月10日に採取された喀痰からMRSA菌以外の常在菌三種が同量検出されており、その喀痰はMRSA感染症による炎症のため生じた膿性のものではない、(2)6月16日までのAの状態は、重要臓器に障害の兆候や血行動態及び循環動態に異常が認められないことなどから、Aが本件手術後、MRSA感染症による敗血症を生じていたとは認めがたく、敗血症が原因で死亡したとは言えない、(3)6月17日にAが痙攣を起こし、脳症状を呈して急激に全身状態を悪化させているのは、脳梗塞もしくは心筋梗塞等の既往の障害が絡んだ突発性の原因と考える方が現実的である、(4)医師が喀痰検査の結果を待たずに本件手術を実施した点も、上気道炎がなければ咽頭培養によってMRSAのスクリーニング(術前検査)を行うことは保険で認められていないこと、保菌状態がわかっても明確な感染兆候がない場合には、手術を回避する必要はないこと、等から担当医師に過失はない、と判示して一審を取り消し、患者側の請求を棄却した。