被告Y1医院の注意義務違反を認める
一審は亡A子が顆粒球減少症にかかったことを予見することは困難であったと認定、被告ら(Y1・Y2)に過失はないとして請求を全部棄却した。
ニ審(原審)は、被告ら(Y1・Y2)には検査義務違反、経過観察義務違反はあるものの、各義務違反と本症発症との間には因果関係がないとして、請求棄却すべきものとした。
最高裁判所は、次のように原告の主張する注意義務違反の存在を認めた。すなわち、「被告Y1のような開業医の役割は、風邪などの比較的軽度の病気の治療に当たるとともに、患者に重大な病気の可能性がある場合には高度な医療を施すことのできる診療機関に転院させることにあるのであって、開業医が長期間にわたり毎日のように通院してきているのに病状が回復せずかえって悪化さえみられるような患者について右診療機関に転医させるべき疑いのある症候を見落とすということは、その職務上の使命の遂行に著しく欠けるところがあるものというべきである」と判示し、開業医が患者に重大な病気の可能性を認めた場合における注意義務の一般的判断基準を述べた。
この一般基準を用い、注意義務違反に関して以下のように具体的判断を示したのである。
本事件の鑑定によると、亡A子の病歴に顆粒球減少症を確認しうる検査所見・症候がないことから、突然劇症型の顆粒球減少症を発症したと推測されていた。
しかしながら、最高裁は「A子の病歴に本発症を確認しうる検査所見等がないというのは、同日までに白血球分画検査並びに本症発症の可能性をも想定した問診及び診察がされたにもかかわらず本症の発症が認められなかったというのではなく、被告Y1がA子には既に発疹が生じていたにもかかわらずこれを見過ごし診療契約上の検査義務及び経過観察義務を怠り、客観的検査を行わず、本症特有の症状の有無に意識的に注意を払った問診及び診察もされなかった結果をいうに過ぎない」とし、鑑定の際の資料として顆粒球減少症の検査所見がなかったことを、被告Y1の落ち度と判断した。
さらに、「開業医が本症の副作用を有する多種の薬剤を長期間継続的に投与された患者について薬疹の可能性のある発疹を認めた場合においては、自院又は他の診療期間において患者が必要な検査、治療を速やかにできるように相応の配慮をすべき義務があるというべきであり、A子の発疹が薬疹によるものである可能性は否定できず、本症の副作用を有する多種の薬剤を長期間継続的に投与されたものである以上、同被告は本症発症を予見し、投薬を中止し、血液検査をすべき義務がないと速断した原審の右判断には、診療契約上の注意義務に関する法令の解釈適用を誤った違法があるといわざるを得ない」と判示。被告Y1医院の一連の行動には注意義務違反があったことを認定した。