(1)、(2)の過失を否定
(3)の過失を認める
Y病院は、(3)に関して「A医師は、第2手術前、口唇の乾き等の脱水を示す症状がなかったため、担当医は著明な脱水症状はないと判断した。A医師は主治医から血液検査における白血球数及び電解質の数値に異常がないことなど、これまでの経緯について説明を受け、さらに自らXの腹部の状態、顔色、痛みの有無等について確認をし、著明な脱水状態が認められないことを確認している。血圧の低下に対しては血管収縮薬で対応できるし、A医師も第1手術より麻酔薬の量も減らし慎重に麻酔を施行したもので当時の医学水準に準拠した適切なものである」などと主張した。
これに対し、裁判所は「第2手術前日と心停止後の第2手術日の血液検査における数値やイレウスの悪化、第2手術後のXの状態などから、本件麻酔施行時には前日の血液検査時より格段に脱水の程度が進行していたと推認するのが相当であり、第2手術時に血液生化学検査を行っていればXが相当程度の脱水状態にあることを認識することができたと推認することができる。
Y病院の医師には、本件麻酔施行に先立ち硬膜外麻酔を施行する上で禁忌であるとされる高度の脱水状態に陥っていないかどうか等、Xの脱水状態の程度を確認するために、Xに血液生化学検査を行うほか、Xの全身状態を改めて慎重に診察し、とりわけXがどの程度の脱水状態に陥っているかを十分に検査し診察すべき注意義務があるが、Y病院の医師は、生化学検査等をして改めて診察しなかったため、Xが相当な程度の脱水状態に陥っていたことを看過した過失がある。
A医師は、Xの第2手術日までの症状を詳細に把握していなかったが、この点は、A医師の過失あるいは主治医がA医師に情報を伝達することを怠った過失によるものというべきである。
また、Xに対して本件麻酔を施行するに当たり、最初にキシロカイン2ないし3ミリリットルを試験量として注入し、その後3ないし4分待ち、Xの状態に異常が認められないことを確認した上で、必要量のキシロカインをXの状態をみながら緩徐かつ慎重に注入し、その後5ないし10分程度待ち、麻酔の効果及び範囲を確認し、Xの状態に異常が認められないことを確認した後に、必要量のイソゾールをXの状態をみながら緩徐かつ慎重に注入すべき注意義務があるにも関わらず、A医師はこれを怠り、麻酔薬を急速に注入した過失がある」と判断した。
また、因果関係についても、Y病院の担当医師に、Xが相当な程度の脱水状態にあることを看過し、ともに脱水状態にある患者の血圧を著明に低下させる危険のある麻酔薬をいずれも急速に注入したという過失があり、そのわずか約10分後にXの血圧が測定不能になり、さらにそのわずか約9分後にXの心停止が確認され、心停止による脳虚血を原因とする大脳皮質障害にいたったもので、脱水状態の患者に対して血圧を低下させる作用のある麻酔剤を急速に注入した場合に予想される典型的な転帰をたどったということができるのであるから、他に特段の事情の認められない限り、その過失と結果の発生との間には相当因果関係があると推認するのが相当であるとして、因果関係を認めている。
そして、損害賠償としてXの損害1億802万2750円、Xの妻の損害300万円、Xの子の損害200万円を認めた。