Yセンターに将来の介護費用等の賠償を命じる
高裁判決は、一審判決同様B医師の説明義務違反を認定したうえで、次のように判示した。
証拠によれば、Xらは次子をもうけたいと思っていたが、すでにPM病の疑われたAがいるXらにとっては、生まれてくる子どもがPM病でないかとの懸念が問題だった。B医師が、当時の医学的知見にもとづき、XらがPM病の因子を保有している可能性とその場合に生まれてくる子がPM病になる蓋然性の程度について正確な説明をした場合には、XらはPM病の子が生まれるのを避ける方法が見出されるまでは、子をもうけることを差し控えたものと認められる。
B医師が説明したことは、Xらが第二子以下の子をもうけようと判断したことに大きな影響を与える情報であったということができるから、Xらが強制されることなく自由な意思で子をもうけたことは、因果関係の認定判断を妨げるものではない。
三男の扶養義務者であるXらは、三男が生存し、かつ三男に対し扶養義務を負う期間、三男がPM病であるために要する介護費用等の特別な費用を、共同して負担することとなるから、そのうちの相当なものは、B医師の義務違反行為と相当因果関係のある損害と認めるべきである。
Xらの平均余命、PM病患者の短命傾向、Xらの高齢化にともない、将来、長男と三男をなんらかの施設に入所させ基本的な介護養育を受けさせることも考えられることなどから、三男の出生後20年間の限度で特別な費用(介護費用、建物設備等費用、介護ベッド代、車椅子代、おむつ代等合計4654万円)を損害として認める。
慰謝料は、Xら各600万円が相当である。
ただし、Xらも遺伝病ではないかという疑問を持っていたこと、B医師も遺伝病であることを否定まではしていないこと、B医師からXらに渡された論文に伴性劣性遺伝に関する記載があったこと、Xらも三男出生まで5年間あらためて相談しなかったことなどから、25%の過失相殺が相当であるとした。
結果、慰謝料900万円、介護費用等3490万円、弁護士費用440万円、合計4830万円が認容された。
Xらは、介護費用の算定基準が低廉であること、過失相殺割合が大きすぎることなどを理由に上告申立及び上告受理申立を行ったが、いずれも棄却・不受理となり東京高裁判決がそのまま確定した。