原告らの主張をほぼ認める
判決は原告らの主張をほぼ認め、被告らに対し総額約2500万円の支払いを命じた(なお認容額は、 Aの法定相続人のうちの一部の提訴であったこととの関係で同様の死亡事件例に比較すると少額となっている)。
ペースメーカー植え込み適応の基準については、ガイドラインに従い、成人における後天性房室ブロックでは、完全房室ブロックで症候性徐脈をともなうものは絶対適応に分類されているとしたうえで、Aが10月17日の初診時に訴えていた動作後の冷や汗、目の前が暗くなったような感じなどを徐脈発生の時期などとの対比から完全房室ブロックの患者に起こりやすい脳虚血の一症状であるとして、この時点でAは症候性徐脈の完全房室ブロックでペースメーカーの絶対適応の状態であったと認定した。
被告らの主張は症候性徐脈をともなう症状をアダムスストークス発作に限局するものであったが、これは否定されている。
また、被告らが強く主張した「絶対適応ではあっても時期としては緊急性はなかった」という反論についても、完全房室ブロックが急性に発症した場合や、完全房室ブロックによる失神やめまいが認められる場合には、心室細動等の致死性不整脈や心不全、心原性ショック等に移行する危険性が高く、緊急にペースメーカー植え込み(ないしは一時的ペースメーカー植え込み等の応急措置)がとられるべきであったとして、被告らの反論を退けている。
同様の理論は、10月31日の入院以降の被告らの措置についても適用され、入院後、発作発生までの間、なんらの措置もとらなかった被告らには当然に責任があるとした。
なお、心室細動発生の原因については「完全房室ブロックの治療としてペースメーカー植え込み手術のため入院中の患者が心室細動を起こして倒れた場合、その原因が治療対象である心臓疾患と別個の原因であるとは考えにくい」とし、原因不明の突然死とする被告らの主張を排斥した。