医師側の過失を認める
裁判所は次の事実を認めている。すなわち、患者は自宅で狭心症発作に見舞われ、心筋梗塞に移行していったのであって、診察当時、心筋梗塞は相当に増悪した状態にあり、患者は点滴中に致死的不整脈を生じ、容体の急変を迎え、不安定型狭心症から切迫性心筋梗塞にいたり、心不全を来して死亡した。
医師は、診察に際し、触診及び聴診を行っただけで、胸部疾患の既往症を聞き出したり、血圧、脈拍、体温等の測定や心電図検査を行うこともせず、狭心症の疑いを持ちながら、ニトログリセリン舌下投与もしていないなど、胸部疾患の可能性のある患者に対する初期治療として行うべき基本的義務を果たしていなかった。
医師が患者に対して適切な医療を行った場合には、患者を救命しえたであろう高度の蓋然性までは認められないが、これを救命できた可能性はあった。