「Aの転送義務違反を認める」との原審判決を破棄・差し戻し
平成18年6月15日に言い渡された仙台高等裁判所における原審(控訴審)判決は、死亡当日の午前5時ごろにはBの衣類が吐物で汚染されてコーヒーかすのような少量の吐血が認められ、担当医も、午前10時30分ごろにBを診察して消化管出血を認識していたことを根拠として、「午後3時30分ごろ、Bがショックに陥った原因が消化管潰瘍の典型的症状であるから、担当医としては、嘔吐や吐血が生じることを予想し、ショックに陥って自ら気道を確保することができなくなったBが吐物を誤嚥しないようにすべき注意義務があった。その時点で適切な医療行為を行うことができる病院に転送すべき注意義務等があり、担当医には同義務を怠った過失があるとした」が、今回の最高裁判決は、以下のとおり判示して、原審判決を破棄して再審理のため原審に差し戻した。
最高裁判決は、「午後3時30分の時点で、発熱、脈微弱、酸素飽和度の低下、唇色不良といった呼吸不全の症状を呈していたが、心拍数は78であり頻脈とはいえず、酸素吸入等が行われた後の同日午後4時30分の時点では口唇及び爪のチアノーゼや四肢冷感はなく、体動も見られたというものである。また、この時点で血圧が急激に低下したような形跡はなく、嘔吐、吐血、下血、激しい腹痛といった、循環血液減少性ショックの原因になるような多量の消化管出血を疑わせる症状があったということもうかがわれない。さらに、病理解剖の結果、空腸に穿孔が見られたが腹膜炎等の所見はなかったというのであるから、上記の時点でBが胃の内容物で腹腔内が汚染されたことによる感染性ショックに陥っていたとも考えがたい。これらの事実に照らすと、午後3時30分の時点でBが発熱等の症状を呈していたというだけで、Bの意識レベルを含む全身状態等について審理判断することなく、この時点でBがショックに陥り自ら気道を確保することができない状態になったとして、このことを前提に、Aに転送義務または気道確保義務に違反した過失があるとした原審の判断には経験則に反するものがある」と判示し原審判決を破棄し差し戻した。