病院側の不法行為責任を認める
Aは、入院当初は単純性イレウスであったとしても、ショック状態に陥る数時間前である10月1日午後零時前後には単純性イレウスから絞扼性イレウスに進展していたものと推認できる。
Aは、入院時点では単純性イレウスと診断されたものの、白血球数は絞扼性イレウス診断の基準値を大きく上まわる1万2900/μlであったし、同日の午前中に鎮痛剤であるソセゴンが繰り返し注射され、鎮痛剤であるボルタレン座薬も繰り返し投与されたにもかかわらず腹痛が治まる様子はなく、顔面に苦痛の表情が表れ、顔色不良、顔面蒼白となり冷や汗も認められるにいたったことが認められる。そうすると同日午前8時50分ころ実施された腹部エコー検査では絞扼性イレウスとの確定診断を下すことはできなかったとしても、Aの身体的所見及び検査所見、特に鎮痛剤の効果も乏しいほどの強い腹痛が持続していたことに照らすと、Y2医師は遅くとも同日午後零時までには、Aに対し絞扼性イレウスであるかどうかの確定診断を下すために、CT検査の実施を決断すべき注意義務があったものと解するのが相当である。
仮に午後零時ころ、Y2医師がAに対しCT検査の実施を決断していたならば、Aが一時ショック状態に陥った同日午後3時45分ころまでに開腹手術を開始できたものと認められ、Aの死亡を回避する蓋然性はあったと言える。