原判決の上告人敗訴部分を破棄
本判決は、チーム医療の総責任者の説明義務の内容について以下のように述べて、原判決の上告人敗訴部分を破棄し本件を原審に差し戻した。
(1)チーム医療として手術が行われる場合、チーム医療の総責任者は、条理上、患者やその家族に対し、手術の必要性、内容、危険性等についての説明が十分に行われるように配慮する義務を有すると言うべきである。
(2)しかし、チーム医療の総責任者は右記説明を常に自ら行わなければならないものではなく、手術にいたるまで患者の診療にあたってきた主治医が右記説明をするのに十分な知識、経験を有している場合には、主治医に右記説明を委ね、自らは必要に応じて主治医を指導、監督するにとどめることも許されるものと解される。そうすると、チーム医療の総責任者は、主治医の説明が十分なものであれば、自ら説明しなかったことを理由に説明義務違反の不法行為責任を負うことはないと言うべきである。
(3)また、主治医の右記説明が不十分なものであったとしても、当該主治医が右記説明をするのに十分な知識、経験を有し、チーム医療の総責任者が必要に応じて当該主治医を指導、監督していた場合には同責任者は、説明義務違反の不法行為責任を負わないと言うべきである。このことはチーム医療の総責任者が手術の執刀者であっても変わることはない。
これを本件についてみると、前記事実関係によれば、上告人は、自らXまたはその家族に対し、本件手術の必要性、内容、危険性等について説明をしたことはなかったが、主治医である B医師が上記説明をしたというのであるから、B医師の説明が十分なものであれば、上告人が説明義務違反の不法行為責任を負うことはないし、B医師の説明が不十分なものであったとしても、 B医師が上記説明をするのに十分な知識、経験を有し、上告人が必要に応じて、B医師を指導、監督していた場合には、上告人は説明義務違反の不法行為責任を負わないと言うべきである。
ところが、原審は、B医師の具体的な説明内容、知識、経験、B医師に対する上告人の指導、監督の内容等について審理、判断することなく、上告人が自らXの大動脈壁のぜい弱性について説明したことがなかったというだけで上告人に説明義務違反を理由とする不法行為責任を認めたものであるから、原審の判断には法令の解釈を誤った違法があり、この違法が判決に影響を及ぼすことは明らかであるとした。