医療機関側の説明義務違反を認める
本件病院の担当医師らは、開頭手術でも後遺症の残る可能性があること、コイル塞栓術の場合、開頭しないですむ利点があるが、術中及び術後に合併症を起こし、しかも死亡する危険性もあること、カンファレンスで判明した開頭手術にともなう問題点について具体的に説明したことは認めたが、コイル塞栓術では開頭手術のように治療中に神経等を損傷する可能性は少ないが、動脈瘤が破裂した場合には開頭手術と違って救命が困難であるという問題点については、わかりやすく説明したとまでは認められず、また、手術直前の慌しい雰囲気の中で、30~40分程度の説明を受けただけで、開頭手術とコイル塞栓術のいずれを選択するのかを問われ、コイル塞栓術を受けることを承諾したもので、いずれの手術も受けずに保存的に経過を見る方法の当否についてあらためて検討する機会を与えられたとは言えないし、開頭手術とコイル塞栓術のいずれを選択するのか、いずれの手術も受けずに保存的に経過を見ることとするのかを熟慮する機会をあらためて与えられたとも言えず、これを正当化する特段の事情があるとも認められないとして、説明義務違反を認めた。
ただし、説明義務違反がなければ患者がコイル塞栓術の実施に同意しなかったとの事実は認めるに足りないとして、東京地裁判決とは異なって説明義務違反と死亡との間に因果関係は認めず、損害としては慰謝料800万円、弁護士費用80万円の限度で認めた。
因果関係を否定した理由としては、本件手術当時、コイル塞栓術は医療水準として確立した術式であり、本件のように開頭手術が困難である場合に、まずコイル塞栓術を試すということは当時の医療水準にかなうものであったこと、患者はコイル塞栓術を実施した際、合併症により死にいたる頻度が2~3%あることの説明を受けており、未破裂動脈瘤を放置していた場合に20年間で4割近くが動脈瘤破裂のおそれがあり、未破裂動脈瘤が破裂した場合には、その4割が致死的であるとの報告があったことからすると、治療をしない場合の死にいたる頻度にくらべ、コイル塞栓術を実施することにより死にいたる頻度はきわめて低いと言うことができること、患者は熟慮の機会が与えられなかったとはいえコイル塞栓術を実施した場合に死にいたる割合についての一応の説明を受けたにもかかわらずコイル塞栓術の実施に同意したことを挙げている。