【1】 療養指導としての説明義務違反を認める
患者(原告)側は、平成13年2月以降同年4月までの間の4回の各診察時において、被告病院には、(1)内視鏡等の検査実施義務違反、(2)大腸癌の可能性と内視鏡等検査の必要性、及び出血が続いた場合の再診の必要性に関する説明義務違反があったと主張した。
これに対し、裁判所は、12時方向の内痔核が初診時に認められており出血は同疾患と矛盾しないこと、出血以外に大腸癌を疑わせる下痢や便秘等の所見が確認されなかったこと、大腸内視鏡検査はそれ自体侵襲性を伴う検査であり、前処置で使用する下剤により内痔核からさらなる出血を起こす危険性もあるほか、合併症の危険もある上、被告病院には常備されていなかったこと、出血が一旦は止まったこと等を理由に、2月及び3月の合計3回の診察時における注意義務は否定した。
しかし他方で、裁判所は、次の理由から、4月の診察時においては、前記(2)の説明(指導)義務違反を認めた(なお、前記(1)の内視鏡等の検査実施義務違反は前処置等が必要だから即日実施すべきとはいえない等の理由でこれを否定した)。
・内痔核は、軟膏などの保存療法によって2週間程度で改善し1か月以上出血が続くことは 稀であるにもかかわらず、患者には2月に内痔核の治療を開始した後1か月以上下血が続いた、よって、他原因を検索すべき状況だった
・患者の痔は肛門からの脱出はなく軽症に分類されるもので治療により出血が早期に止まる可能性が高かった、よって、本件では大腸癌を疑うべき状況だった
・2月の初診時以降は直腸診や肛門鏡等による診察は行われておらず内痔核の状態は不明だった
・患者の出血は一応落ち着いており特に内視鏡検査を行うことに支障がある状況も存在しなかった
・被告病院は地域に高度の医療を提供する総合病院である
【2】 因果関係を認める
裁判所は、さらに、証拠(本件患者のデータ、医学文献、医師意見書等)から、前記義務違反時である平成13年4月時点の患者の大腸癌はステージ2に留まったはずと推認した。その上で、ステージ2の直腸癌の5年生存率が77・7パーセントという証拠に基づき、義務違反がなければ患者を救命できたとして、被告病院の義務違反と患者の死亡との間の因果関係を認めた。