Vol.111 総胆管内の結石除去術における過失の推認

~結石を除去する手術で除去に失敗したことについて、担当医の過失が認められた裁判例~

-那覇地裁平成23年6月21日判決-
協力:「医療問題弁護団」谷 直樹弁護士

* 判例の選択は、医師側もしくは患者側の立場を意図したものではなく、中立の立場をとらせていただきます。

事件内容

本件診療経過は以下のとおりである。平成13年6月27日に行われた超音波検査では、胆のうの結石は明らかであり、総胆管内にも結石の存在が疑われた。
丙谷医師は、平成13年7月3日、ERCPによって総胆管結石を確認した上、EPBDを施行して除去を試みたが、これによって除去することはできなかった。
平成13年7月4日の未明から、原告に膵炎が出現し、血液検査の結果、ERCPに伴った膵炎と診断され、保存的治療が施行された。
ここまでの経緯については、判決は何ら問題を認めていない。問題は、その後の丁山医師による手術である。
丁山医師は、平成13年7月13日、まず、胆のう管を切開して細径胆道ファイバーを挿入し、総胆管内に結石を確認したことから、バスケット鉗子にて採石を試みたものの、採石することができず、総胆管下部に結石が嵌り込むこととなった。そこで、丁山医師は、次に、開腹して胆のうを摘出した上、総胆管を切開する方法で採石を試みたが、やはり成功せず、かえって結石をさらに総胆管下部へ嵌頓させることになった。そのため、丁山医師は、手術による結石の除去を断念し、T-チューブを留置して手術を終了した。

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判決

1 結石嵌頓の原因

判決は、「経胆のう管以外の方法で除去できなかった原因について、丁山医師は、経胆のう管法の実施中に結石を押し込めてしまうとともに、胆管内の壁に浮腫が生じ、結石の嵌頓により、その他の結石処理法が成功しなかった旨を証言しており、これらの証言は、入院診療録中の経過表の記載と照らし合わせても、信用し得るものである。」とする。
「したがって、本件外科手術においては、経胆のう管法によって総胆管内の結石を除去することができず、むしろ嵌頓させてしまったため、最終的に結石の除去に成功しなかったものと認められる。」と結石の除去に成功しなかった原因を認定した。

2 結石除去ができないのは稀

判決は、「経胆のう管法は、これを総胆管結石手術における第一選択とする病院も存在する一般的な手法であること、松田意見書及び長原意見書がいずれも総胆管切開手法まで行って結石除去ができないのは稀と指摘し、丁山医師自身、自己の経験において同様の結果に陥った症例は1例もなく、最終的に結石除去を断念せざるを得ない事態は想定していなかった旨証言している(中略)手術そのものの困難さなどによるやむを得ない結果であるとは想定し難い。」と判示した。

3 操作上の誤りを推認

そして、判決は、「結石を取り出す操作に手間取り、手術自体が通常より長時間かかったこと、手術操作により粘膜面を刺激することになり、長く刺激するほど浮腫は出やすくなること、結石を押し込めてしまったことと浮腫が合わさって結石が抜けなくなっことをそれぞれ証言し、他方、なぜ操作に手間取ったかについては、「…うまく取れなかったとしか言いようがないです。」と答えるのみで、何らその原因の説明ができていない。」こと等から、「結石の把持が困難であったことについて、その他の原因の存在が認められない限り、本件外科手術における結石の嵌頓は、経胆のう管法の実施中における丁山医師の操作上の誤りに起因すると推認し得るものである。」と判示した。

4 事実認定

判決は、前記推認を前提に、被告の反証について検討し、次のとおり判示した。

「そして、被告において、そのような原因関係につき具体的な主張立証を一切せず、また、丁山医師からも説明がされない状況からすれば、具体的な態様を特定することはできないものの、丁山医師において、操作上の誤りにより、総胆管結石を総胆管下部に嵌頓させてしまい、その結果として本件外科手術が失敗したものというほかない。」と認定した。

判例に学ぶ

本判決は、「操作上の誤り」の具体的内容を認定していないにもかかわらず、本件外科手術の失敗について責任を認めている。
那覇地裁平成23年6月21日判決(判例時報2126号105頁、判例タイムズ1365号214頁)は、経胆のう管法は一般的な手法であること、総胆管切開手法まで行って結石除去ができないのは稀であること、その他の原因が認められないこと等から、医師の操作上の誤りを認定したものである。
(1)一般的な手術方法で、(2)不成功が稀で、(3)不成功の原因について合理的な説明ができない場合は、手術結果は操作上の誤りに起因するものと推認されることを確認した判決である。
一般的な手術方法で、不成功が稀な手術が不成功に終わった場合、合理的な説明ができなければ、不成功は操作上のミスと推認されることに注意すべきである。
手技ミスを具体的に認定することは著しく困難なので、裁判実務においては、概括的な過失認定や事実上の立証責任の転換が行われている。
たとえば、神戸地方裁判所尼崎支部平成4年11月26日判決(判例時報1479号73頁)は、「手術の際の何らかの過誤」という概括的な過失を認定した判例である。
すなわち、「桐田式の椎弓切除術に際しては、変性した脊髄ほど易損性の高いことに留意し、手術による機械的な影響がたとえ些細だと考えられても、それは重大な結果-永久的四肢麻痺に通ずることを常に念頭におき、出血、乾燥、術中術後の血圧の変動、術後体位等あらゆる点が変性した脊髄につよい影響を及ぼすことに思いをいたし細心の注意と慎重な配慮のもとに対処する必要があると述べられていることからすれば、原告の特異体質あるいは不可抗力等、原告の症状の発生に対する説得的な他原因の認められない限り、原告の後遺障害は、脊柱管内の骨軟骨腫によって圧迫されていた脊髄が、手術の際の何らかの過誤により、機械的な影響を受けて損傷したことによるものであると推定されるべきである。」とし、「本件手術は第六、七頚椎から第一胸椎にかけてであるところ、これが、腰椎部や頚椎部に比較すれば、難易度の高い手術であり、また桐田式椎弓切除術についてはその後も改良ないし他の方法が考案されてきていることが認められるが、だからといって昭和49年当時において、右部位における本件手術の結果回避が不可能あるいは著しく困難であったといえるほど困難な手術であったとまでは認めることはできない。もし、仮に、当時の術式により結果回避が不可能あるいは著しく困難であったとすると、そのような手術の実施自体が問い直されなければならないことになる。」として不可抗力の主張を排斥している。
最高裁昭和39年7月28日判決(判例時報480号26頁)も脊髄硬膜外麻酔注射後にブドウ状球菌に感染し、硬膜外膿瘍が生じた事案であるが、「麻酔注射に際して、注射器具、施術者の手指あるいは患者の注射部位の消毒が不完全」という程度の概括的な過失認定を行っている。
最高裁平成11年3月23日判決(脳ベラ判決、判例時報1677号54頁、判例タイムズ1003号158頁)は、「本件手術後間もなく発生した小脳内出血等は、本件手術中の何らかの操作上の誤りに起因するものではないかとの疑いを強く抱かせるものというべきである」と判示した。そして、他の原因による血腫発生も考えられないではないという極めて低い可能性があることをもって、本件手術の操作上の誤りがあったものと推認することはできないとした原審の認定判断には経験則ないし採証法則違背がある、として、原判決を破棄し、差し戻した。なお、差し戻し審(大阪高裁平成13年7月26日判決)では、再鑑定の結果、手技上の過失はないとされ(反証の成功)、説明義務違反を理由に一部認容されている。
那覇地裁平成23年6月21日判決は、この最高裁判決を踏襲したもので、手技上の過失の特定、認定について、参考になる事例判決である。