1 争点
本件の争点は、①C型肝炎の診断・治療義務違反の有無、②死亡との間の因果関係の有無と損害額である。
2 前提となる事実経過
(1)平成8年検査
平成8年10月30日、亡Aは、Y1から高血圧症の診断を受け、通院治療を開始した。
平成8年11月8日、亡Aは、Y2において血液検査を受けたところ、その結果は、GOTが58、GPTが81、γ -GTPが88、ZTTが15・6、MCVが104と異常値を示すものであった。Y1は、検査結果が肝炎の慢性化を表すものであり、アルコール性肝炎の可能性を疑ったが、ウイルス性肝炎の可能性も否定できないと考え、亡Aに対し、肝炎ウイルスに感染している可能性があることを説明し、肝炎ウイルス検査の受検を勧めた。
しかし、亡Aは、Y1の勧めに従わず、受検しなかった。
亡Aは、その後も、Y2へ通院し、高血圧治療薬(ロプレソール、アダラート)の投薬を受けた。
(2)平成12年検査
平成12年12月8日、亡Aは再び血液検査を受け、GOTが197、GPTが128、LDHが528、ZTTが15・8、γ -GTPが609、A/Gが1・1、MCVが109であった。Y1は、γ -GTP値が異常に高く、MCV値も高い上、GOT値及びGPT値も非常に高かったことに加え、亡Aが常日頃からアルコールを摂取していたことから、アルコールによる慢性肝炎と診断し、亡Aに対し、アルコール性肝炎が命にかかわることもあると説明して禁酒を指示するとともに、強力ミノマイシンを投与し、さらに、高血圧治療薬に加え、肝機能改善薬(ウルソ)を処方した。
また、Y1は、このときも、亡Aに対し、C型肝炎ウイルス検査の受検を勧めたが、亡Aは受検しなかった。
亡Aは、その後も、Y2に通院し続けた(月1~2回程度)。
(3)C型肝炎感染の判明と死亡
平成17年6月14日、亡Aは、黄疸が出るようになり、たばこを吸うことができなくなったと訴えたことからC型肝炎ウイルス検査が実施され、C型肝炎ウイルスに感染していること及び肝臓癌がステージⅣA〜ⅣBへ進行していることが判明した。平成17年8月13日、亡Aは、抗がん剤の治療等の甲斐なく死亡した。
3 ①C型肝炎の診断・治療義務違反の有無
(1)平成8年検査について、「Y1は、検査を拒否する亡Aに対し、改めて、C型慢性肝炎を発症しているとすれば、その予後がどのようなものとなり、それを回避するためにどのような治療が必要であるかを説明し、C型肝炎ウイルス検査を受検するよう説得を試みる義務を負うというべきである」「Y1は、亡Aに対し、C型肝炎ウイルスに感染している可能性があることについて説明したものの、感染していた場合にC型慢性肝炎の予後が重大なものであるため、その治療が必要であると説明し、改めて、C型肝炎ウイルス検査を受検するよう説得を試みることはなかったから、説明・説得義務を尽くさなかった」と判示し、説明説得義務違反を認めた。
(2)また、平成12年検査についても、「肝機能障害が相当悪化していたことがうかがわれるのであるから、C型肝炎の合併を鑑別するため、C型肝炎ウイルス検査を実施する必要性は、平成8年検査の時点よりも一層高まっていた」として、説明説得義務違反を肯定した。
4 ②死亡との間の因果関係の有無と損害額
仮にY1において上記説明・説得義務が尽くされたとしても、亡Aが検査指示に応じなかったこと、禁酒指示にもかかわらず多飲を継続したこと等の受診態度からすれば、亡AがC型肝炎の検査や治療を受けずに、「本件と同じ経過をたどって死亡していた可能性が高く、亡Aが、その死亡の時点において、なお生存していた高度の蓋然性を認めることはできない」として、死亡との間の因果関係を否定した。
もっとも、「死亡の時点で生存していた可能性が相当程度にはあるということができる」とし、期待権侵害との因果関係は認め、慰謝料金額及び弁護士費用の合計約275万円を認めた。