過失と結果との因果関係につき、「高度の蓋然性」の立証がない場合、因果関係は否定されます。
ただし、最高裁は、「高度の蓋然性」の立証がない場合でも、医療機関側が責任を負う余地を認めています(最高裁第二小法廷平成12年9月22日判決・民集54巻7号2574頁)。
この事案は、上背部痛及び心窩部痛を訴えて夜間救急外来を訪れた患者が、不安定型狭心症から切迫性急性心筋梗塞に至り、心不全を来たし死亡したものです。
医師は、触診及び聴診を行っただけで、既往症を聞いたり、バイタルサインのチェックや心電図検査を行ったりすることをしないなど、初期医療として行うべき基本的義務を果たしていませんでした。
最高裁は、「生命を維持することは人にとって最も基本的な利益であって、右の可能性は法によって保護されるべき利益」であるとし、「医療水準にかなった医療が行われていたならば患者がその死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性の存在が証明されるときは、医師は、患者に対し、不法行為による損害を賠償する責任を負う」と判示しました。
これは、「相当程度の可能性論」といわれています。
その後、拘置所の医師が脳梗塞を発症した勾留中の者を外部の医療機関に速やかに転送する義務の違反があったか否か争われた事案において、最高裁(多数意見)は、問題となっている医療行為につき粗雑診療が行われたとはいえないとして議論の前提を欠くとしました(前記最一判平成17年12月88日)(なお、反対意見あり)。
また、下肢の骨接合術等の術後合併症として下肢深部静脈血栓症を発症した患者を血管疾患の専門医に紹介しなかった事案において、最高裁は、「患者が適切な医療行為を受けることができなかった場合に、医師が、患者に対して、適切な医療行為を受ける期待権の侵害のみを理由とする不法行為責任を負うことがあるか否かは、当該医療行為が著しく不適切なものである事案について検討し得るにとどまるべきものである。」と判示しました(前記最二判平成23年2月25日)。
本判決は、前記平成17年判決及び平成23年判決を引用した上での全員一致の意見であり、したがって、相当程度の可能性論は、当該医療行為が著しく不適切なものである事案に限られるということになります。