本件では、その当時の医療水準に照らしてYらに過失があるのかが問題になりました。また過失と死亡の相当因果関係を考える前提として、Aの死因について、経過を詳細に検討した上で認定し、因果関係につき判断しています。
医療水準については、手術当時の一般的産科医にとって、常位胎盤早期剝離発症時には産科DICスコアを用い、可及的速やかにDIC治療を始めることは臨床医学の実践における医療水準となっていたとしています。
また、輸血に関しては、産科出血ガイドラインには当時は公表されていなかったとしても、当時公表されていた一般的な医学文献で推奨されていたショックインデックスによる評価を行い、輸血を実施すべきであったのにしていなかったとしています。
このように、その時点の医療水準は、ガイドラインのみではなく、一般的な医師の共通認識となっているかや、一般的に公表されている医学文献ではどのようになっているかも判断要素とされます。
また、Yらから羊水塞栓症に関連して救命可能性がなかったという主張がされていますが、本件では発症した可能性があるのはどのようなタイプの羊水塞栓症かを認定し、救命可能性についてもそれに応じた検討がされています。
本件では、Yらは、羊水塞栓症の救命事例は、そのほとんどがICUによる集学的管理・治療が行われたものであって、ICUのないY病院において救命することは不可能とも主張していましたが、DIC先行型羊水塞栓症の救命事例のほとんどがICUによる集学的管理・治療が行われたものであることを裏付ける証拠はないとされ、Yらの主張は採用することができないと認定されました。