説明内容を記録化する上での留意点
裁判所は、仮に、被告病院の主張するように、危険性を正確に伝えたのであれば、そのことをうかがわせる記載が、承諾書やカルテにあってしかるべきであるが、承諾書にはそのような記載がないことから、被告が主張するような10~20%という高い危険性の説明はなかったと認定した。
一方、カルテには被告の主張に沿う記載はあったものの、合併症が発生した後に記載されたものであることを理由に信用性を否定した。
患者や手術が抱えるリスクは事案に応じてさまざまであるが、特に一般的なレベルを超えて重大なリスクが予想される場合や特別な施術を行う場合などは、それらについて分かりやすく具体的に説明した上で、定型の説明・承諾書にサインをもらうだけではなく、特記事項として説明内容の詳細と患者の受け止めなどを記載しておくことが、紛争の予防という観点からは望ましいといえる。
また、カルテや承諾書への説明内容・経過の記載は、術後ではなく、説明後速やかに行うことが求められる。
リスク説明に当たっての留意点
合併症や危険性等のリスク説明は、承諾書等に列記されている一般的な事項にとどまらず、個々の患者が抱える事情に応じた具体的な説明が求められる。
また、リスクの発生確率等が学会や施設などによってある程度統計的に報告・把握されている場合は、その数値を示すなどの説明も必要となることがある。
なお、「十中八九可能」という言葉は、一般的には安全性を肯定する意味で使われるものであり、患者もそのように受け止めるのが通常である。
病院側が主張するように、危険性が10~20%程度と相当高いことを伝えるために用いたのであれば、用い方として不適切と判断されてもやむを得ないと思われる(リスクについて「飛行機事故並みの確率である」との説明が問題となった裁判例として東京地裁平成4年8月31日)。
インフォームド・コンセントの記録化の意義
患者が自身の病気とこれに対する治療方法と内容を把握し、どのような治療方法を選択するかを決断する上で、インフォームド・コンセント(説明と合意)は重要である(医師と患者による情報と決断の共有)。
そして説明時の詳細を記録しておくことは、医師と患者がどのような情報を共有し、どのような理由から当該診療行為を選択(決断)するに至ったのかを把握可能とし、医療事故の発生予防や、万一事故が発生した場合の原因究明と再発防止策の策定に当たっても有用と言われている。
群馬大学医学部附属病院は、腹腔鏡手術等による一連の医療事故の患者遺族会の要望を受けて、再発防止策の一つとして、本年1月より、一部の診療科においてではあるが、インフォームド・コンセントの模様をICレコーダーで録音することを試験的に導入した。こうした試みも参考にしつつ、他の医療機関でも記録化のためのさまざまな取り組みが進むことが期待される。