本件は、直接的な処置というよりも、検査実施後の経過観察を含む事後対応について、裁判所が、本件医療機関の責任を認めて、本件医療機関に対して請求額4200万円のうちほぼ満額認容の4120万円の支払いを命じた事案である。
いわゆる医療過誤訴訟の中では、直接的な医療行為そのものではなく事後対応について過失を認め、かつ損害をほぼ満額認容したという意味で、比較的数の少ない事案だと思われる。
本件と類似するERCP後の膵炎を扱った裁判例(大阪地裁平成12年9月28日判決)においても、同様に満額認容に近い1億3892万円余りの損害賠償請求が認められている。
いずれの事案も、ERCP検査を実施した医療機関としては、その治療水準にも問題はあったが、裁判所の認容の理由について検討してみたい。
一般に、作為によって生じた結果に対する責任と、不作為によって生じた結果に対する責任を、別の枠組みで判断されるべきものとされている。
ある者がある行為を行った場合、その行為によって生じた結果に対して、責任を取らなければならないことは当然であるから、責任を認める条件は緩やかに考えられる(作為:誤投薬や手技ミスなどが典型である)。
これに対して、ある者が本来すべき行為をしなかったことにより生じた結果について、その者が責任を取らなければならないかは、すべきことの内容や、すべきといえるかどうかなど、検討すべき事項が多く、また因果関係も実際には生じていない仮定的な検討を要することとなり、結果として、一般に、責任は認められにくい傾向にある(不作為:疾患の見落としや治療の遅延などが典型である)。
本件は一見すると、検査後に本来必要な検査や治療を怠ったという不作為の事案であるようにも思える。
しかし、ERCP検査については、検査自体に一定の侵襲があり、かつ施行後には合併症の危険があることからすれば、ERCP検査自体を作為として考えることはもちろん、その後に生じている状況についても、検査という作為の結果、生じているものと考えることが妥当となる。
ERCP後膵炎がERCP検査という医療機関側の作為によって引き起こされたものなのであるならば、その患者に対応する医師には、単なる初診患者に対する診察場面(における膵炎の見落としや治療の遅延という不作為)に比べて、より高度の注意義務が認められることとなる。
本件について、裁判所は、ERCP検査自体を、作為として捉えて、その結果に対して責任を認めたものと考えれば、より整合的に本件を理解できる。