1 経過
平成29年7月および8月に、超音波検査が実施され、画像上、一絨毛膜二羊膜双胎(MD双胎)の所見があったが、被告担当医は、二卵性と診断した。
被告担当医は、さらに2回、超音波検査を実施したが、二卵性二胎盤と診断した。被告担当医は、その後も継続的に診察をし、同年11月にTTTSの所見はないと診断した。
妊婦は、同年12月に切迫早産のため被告クリニックに入院し、以降、ウテメリン(子宮収縮抑制薬)の点滴投与を受けた。平成30年2月に被告クリニックで出産した。
2 注意義務
裁判所は、一絨毛膜双胎においてはTTTS等の予後不良の疾患頻度が高いため、妊娠初期に膜性診断を行うべきであり、一絨毛膜双胎と診断された場合は、低出生体重児の管理可能な施設においてか、そのような施設と緊密な連携を取りながら管理すべきである、と判示した。
3 注意義務違反
裁判所は、平成29年7月にMD双胎と診断することが可能であったにもかかわらず、被告担当医はこれを怠り、同年9月には二卵性二胎盤であると誤った診断を行った上、低出生体重児の管理可能な施設に転医勧奨したり、そのような施設と緊密な連携を取りながら管理することなく、被告クリニックにおいて娩出させたのであるから、被告担当医に注意義務違反が認められる、と判示した。
4 因果関係
被告らは、MD双胎は、合併症として血管吻合に伴うTTTSにより一児の発育不全および胎児死亡等の恐れがあり、分娩まで特に問題なく経過した場合でも、脳性麻痺や長期的な神経学的障害の発症リスクが有意に高く、また、一児に関して一定の生存率の差があり、被告らの過失と第2子死亡との因果関係は割合的に認定されるべきである、と主張した。
これに対し、裁判所は、被告担当医が適切に膜性診断を行い、低出生体重児の管理可能な施設へ転医することを勧奨するか、そのような施設と綿密な連携を取りながら管理していれば、胎児がTTTSを発症した際に娩出ないし胎児鏡下胎盤吻合血管レーザー凝固術(FLP)を実施することにより、第2子が死亡することはなかったと認めるのが相当である、と判示した。
5 素因減額の主張について
被告らは、ハイリスクのMD双胎において、一児が健全に出生して後遺症もなく通常の生活を営むことを前提に損害額を算定するのは公平を失する、として素因減額を主張した。
これに対し、裁判所は、MD双胎において周産期死亡率や神経学的後遺症が多いのは、TTTS、一児発育不全(IUGR)、一児死亡に伴う生存児の急性虚血、無心体双胎など共通胎盤の吻合血管に起因する特徴的な疾患群が存在するためであり、TTTSは適切な治療介入により予後の改善が見込まれる以上、MD双胎であることを理由に賠償額を減額すべきものとは解されない、と判示した。
裁判例に学ぶ
二卵性は全て二絨毛膜二羊膜双胎(DD双胎)であるが、一卵性にはいろいろなタイプがある。
一卵性の約4分の3は、一絨毛膜二羊膜双胎(MD双胎)である。MD双胎は、一つの胎盤を共有するので、吻合血管を通じて血流のアンバランスが生じ得る。血液が一人の児に多く流れ、もう一人の児にはあまり流れないという、双胎間輸血症候群(TTTS)のリスクがあるのだ。
そこで、MD双胎には高次医療機関での管理もしくは、その機関と連携した管理が求められている。
胎児がTTTSを発症しても、娩出可能な週数であればNICU(新生児集中治療室)を併設する医療機関で娩出する。娩出不可能な週数であれば胎児鏡下胎盤吻合血管レーザー凝固術(FLP)を実施することにより治療可能である。
FLPを実施することができる施設は限られている。そこで、高次医療機関での管理ないし連携が必要となる。しかし、そもそも、MD双胎と診断しなければ、このような対応に至らない。そこで、超音波による双胎の膜性診断は極めて重要である。
「産婦人科診療ガイドライン産科編2017」にも、「以下の点に注意し超音波検査を行い、絨毛膜と羊膜の数から膜性を診断する。
1)絨毛膜数は、胎囊の数で診断する。2)羊膜数は、胎囊の中の胎児を含む羊水腔を囲う羊膜の数で診断する。3)絨毛膜数の診断は妊娠10週までに行う。」と記載されていた。
なお、2020年版では、近年の超音波機器の解像度の向上により、「遅くとも14週までに診断する」となっている。
本件は、ガイドラインを遵守することの重要性を示す裁判例である。