本件は、美容医療の特殊性を踏まえつつ、美容クリニックに説明義務違反があるとして、患者側の請求を認めた事例です。
そもそも、美容医療が、いわゆる「医療行為」に当たるか否かについては、かねて議論があるところです。
現在では、美容医療も「医療行為」に当たると考えた上で、美容医療の特殊性を踏まえ、美容診療契約の法的性質や、医師の注意義務の程度を議論する見解が多数であるように思います。
ここで言う、美容医療の特殊性とは、おおむね以下のとおりです。
すなわち、①患者の生命身体の健康を維持ないし回復させるために実施されるものではないこと、②医学的に見て必要性および緊急性に乏しく、患者の主観的願望を満足させるためのものであること、③ほとんどの場合が自由診療に基づく決して安価とはいえない費用を要すること、です。
本件で、裁判所は、上記美容医療の特殊性を踏まえつつ、クリニックの説明義務違反を認定しています。
一般的に、美容医療については、純粋な医療行為としての医学的必要性・緊急性が乏しいと考えられ、通常の医療行為の場合に比べ、患者に対してより十分な説明が必要です。
本件で、裁判所が認定した、クリニックの患者への説明ですが、「①65歳くらいの人が50歳にしか見えない、②しわが取れてしわがきれいになる、③スーパーリセリングの方がリセリングよりも個人差に左右されず、効果が高い、④細胞を注入した後はすぐに効果を実感でき、遅くとも施術後3カ月で効果が出る」などの内容でした。
このときクリニックは、施術結果に患者が主観的に満足を得られないことがある場合や、客観的に結果が変わらない場合もあることについて説明をしていませんでした。
また、クリニックへの同意書には、スーパーリセリングを受けた後に腫れや赤みが生じる場合があること、キャンセルをしても返金できないことについての記載はありましたが、スーパーリセリングには効果が生じない場合があることや、そのような場合にも返金や減額には応じない旨の記載はありませんでした。
医師の説明義務を導く法的根拠として、「患者の自己決定権」を重視する見解と、診療契約(準委任契約)における義務の一内容として捉える見解とがありますが、一般的な医療行為の説明義務について、裁判実務は後者に依拠しています。
すなわち、本来の医療行為においては、患者が医師の助言に基づいて決定するのではなく、医師が患者の希望を踏まえた上で責任をもって行うことが、前提となっているように推察されます。
しかし、美容医療における説明義務については、本件も含め、裁判例上、通常の医療行為の場合のそれと比べて、患者の自己決定権がより重視されているように感じられます。
本件は、患者の意思を重視した丁寧な認定、判示をしている点で、美容診療における説明義務違反について、重要な意義を有する裁判例です。