自己が専門外(他科)の疾患を疑った場合、医師は患者に対して他科受診を勧めれば足り、それ以上に診療情報提供書(院内診察依頼・報告書等)を作成し、他科の医師に必要な診療の内容を告知して転科の措置を取ることまでは必要ないと裁判所は判断しています。
この点についての原告側の主張は、適切な治療を受けるべき時期を失しないよう適宜の時期に転科の措置を取る義務を負うというものでした。
本件の被告病院が総合病院であって、単科病院に比較すると他科と連携することは容易かもしれませんが、医師が患者の意向を無視して他科を受診させることを認めるべきではありませんし、診療情報提供書の作成を当然に期待することもできませんから、本件の結論は適切なものと思われます。
がんの見落としに関しては、Aの問診の結果が大腸がんの典型症状を示していることや、内痔核では便柱狭小や下痢、腹部の張りについて説明がつかないとして、内痔核が落ち着いてから検査を実施ないしはオーダーしたのでは遅いとして、病院側の過失を認めました。
問診は、問診表の記載も含め、診断の基礎になるものとしてその内容を十分にチェックすることが求められているものと思われます。
なお、本件では、被告病院に検査義務違反を認めたものの、平成14年5月17日の時点で大腸がんを疑い直ちに検査を実施(予定)していたとしても、Aの肝転移の状況からして死亡日時点でなお生存していた高度の蓋然性は認められず、相当程度の可能性にとどまるとして、可能性侵害に対する慰謝料150万円と弁護士費用(総額16万円)について病院側に支払いが命じられています。