1 判決では、A医師が、帝王切開をすべき注意義務、帝王切開へと分娩術を変更できるような態勢を構築すべき注意義務を負っていたか否かにつき判示された。
2 帝王切開をすべき注意義務違反があるか
本判決は、平成25年当時、巨大児であるか否かの正確な診断は困難であり、巨大児が全て難産であるとも限らなかったことなどから、巨大児であるか否か、またはその疑いがあるか否かを基準にして帝王切開を実施するという医療水準はまだ確立していなかったといえるとした。
本件の具体的な事情に即してみても、胎児(X)が巨大児でない可能性や、仮に巨大児であったとしても、肩甲難産が生じない可能性が認められたこと、Cは、平成21年および平成23年当時、1型糖尿病に罹患していたが、第1子(出生体重3066グラム)および第2子(出生体重4760グラム)を経膣分娩で出産したこと、帝王切開を実施した場合の危険性が重大であること、特に、Cのように1型糖尿病に罹患している場合にその危険性がさらに高まること、Cは当時、分娩遷延・停止の状態に陥ったともいえないことに照らせば、仮に、胎児(X)が巨大児で、かつ、肩甲難産が発生し得る可能性があり、この場合に胎児(X)に生じ得る後遺障害が重大なものとなり得ることを考慮しても、なお帝王切開をした場合の危険性が高かったといわざるを得ないのであって、A医師が、帝王切開をすべき注意義務を負っていたとまではいえないとした。
3 帝王切開へと分娩術を変更できるような態勢を構築すべき注意義務違反があるか
当時、巨大児か否かの正確な診断は困難であり、巨大児の全てが難産であるとも限らなかったことなどから、巨大児であるか否か(またはその疑いがあるか否か)を基準にして帝王切開を実施するという医療水準はまだ確立していなかったことに照らせば、Cの出産において、分娩前の段階で、帝王切開が選択されるべきであったとはいえない。
また、同年当時、分娩遷延・停止となった場合、帝王切開を実施するという医療水準がまだ確立していたとまではいえないことに照らせば、仮に、Cの出産において、分娩遷延・停止となったとしても、直ちに帝王切開へと分娩術を変更すべきであったとはいえない。
さらに、同年当時、肩甲難産が生じた場合、人員を確保するとともに、会陰切開・マックロバーツ体位・恥骨上縁圧迫法などにより娩出を図ることを考慮することが勧められていたものの、帝王切開へと分娩術を変更することは勧められていなかったことに照らせば、仮に、Cの出産において、肩甲難産が生じたとしても、帝王切開へと分娩術を変更すべきであったとはいえない。
そうすると、本件において、選択的帝王切開と緊急帝王切開のいずれも実施することが想定されない状況であった以上、A医師が帝王切開へと分娩術を変更できるような態勢を構築すべき注意義務を負っていたとはいえないとした。
4 結論
本判決は、A医師に帝王切開をすべき注意義務、帝王切開へと分娩術を変更できるような態勢を構築すべき注意義務があったとはいえないとして、Xの損害賠償請求を認めず、Xの請求を棄却した。