破裂動脈瘤によるくも膜下出血疑いと診断された40代前半の女性(G)が、コイル塞栓術(本件手術)を受けたが、術中に動脈瘤が破裂しくも膜下出血を起こし死亡した事案。
原審では請求全部棄却。
控訴審で、説明義務と手技上の過失が認められた。
経過概要は次の通り。
①6月17日20時頃、G、突発的な頭痛と嘔吐がある。
6月19日には、くも膜下出血疑いで、相手方病院の精査を受け、破裂動脈瘤を原因とするくも膜下出血疑いで入院。
同日CTでは、前交通動脈に二つの葉状の構成成分を有する6mm大の破裂脳動脈瘤(本件動脈瘤)が存在。
右側構成成分は、幅2.24mm、高さ4.35mm、左側構成成分は、幅3.42mm、高さ4.09mm。
②H医師は、I医師と相談し、脳血管攣縮を合併している場合にクリッピング術を施すと脳梗塞に至ることが多いことなどを考慮し、コイル塞栓術を第一選択とした。
③H医師は、同日19時頃、家族に対し、本件病状説明書面および本件手術説明書を示して説明をした。
④20時40分頃、本件手術開始。
医師らは、ダブルカテーテルを用いることとし、右内頚動脈から前大脳動脈を経由させて、本件右側構成成分を塞栓するために先端を90度程度曲げたマイクロカテーテル1と、本件左側構成成分を塞栓するために先端を45度程度曲げたマイクロカテーテル2を本件動脈瘤のうち本件左側構成成分寄りの位置に留置した。
コイル1は、コイルを充塡するフレームを瘤内に形成するためのフレーミングコイルで、I医師らは、コイル1として二次コイル径3.5mm、長さ5cmのOrbit Galaxyを選択し(以下、コイルは全てOrbitGalaxy のもの)、カテーテル2を用いて本件動脈瘤に挿入した。
I医師らは、さらに、フィリングコイルとして、コイル2を本件右側構成成分に、コイル3.4を本件左側構成成分に挿入した。
I医師らは、本件右側構成成分に依然として造影剤の貯留が認められたため、フィリングコイルを挿入することとし、コイル5として二次コイル径3mm、長さ4cmを、カテーテル1を用いて本件右側構成成分のうち前方に張り出した部分に充塡したところ、残り1cmの時点で、Gが強い頭痛を訴え、直後の22時30分の脳血管撮影で、本件左側構成成分のネック部分が再破裂(本件再破裂)・再出血していた。
⑤Gは、脳死状態となり、7月1日に死亡した。
同日、H医師に説明を求めた遺族は、本件動脈瘤が左側構成成分も有する二つの葉状のものであったことの説明がなかった、破裂した後に対策が取れないならコイル塞栓術を選ばなかったとの趣旨の話をし、H医師も、前者を説明していないことは自認した。