1.モニターのアラームに関わる医療事故は比較的多く、アラームの設定ミス等でアラームが鳴らなかったケース、監視体制が不十分でアラームに気付かなかったケース、アラームに気付いたものの他で手一杯で対応できなかったケースなど、さまざまな類型があります。
本件は、アラームに気付けなかったケースです。
2.急性冠症候群のPCIから3日後のケースなので、慎重に様子を見るべき時期にあり、心室性期外収縮が散発していたことからも、VFなどに注意してモニター監視することが求められていたと考えます。
波形に異常が現れ、リードエラーとなり波形が消失したのに、約3時間もの間、患者の様子を見に行かなかった看護態勢には問題があります。
3.アラーム事故においては、病棟でアラームが頻発する実情や人手不足などの現実的限界を理由に、病院側の義務を緩和する方向で争われることがあります。
しかし、アラーム対応は人命に関わり得るものであり、「いつも鳴っているから」や「忙しいから」の理由で放置していいものではありません。
この点、神戸地裁平成23年9月27日判決は、「ナースステーションに在室する看護師は、アラームが鳴ったときは直ちにモニターを確認して単なる一時的な異常と判断されるのであれば格別、そうでない場合には訪室して異常の原因を除去する、医師に異常を伝えるなどの措置をとるべき注意義務がある」と判断しました。
4.モニター取扱時の注意点についてはPMDA医療安全情報(No.29 2020年4月改訂版)にて周知が促されています。
アラームが鳴動した際の基本的な対応方針を明確にすることや、セントラルモニタ等の適切な使用のため、必要性等をチームで検討することが指摘されており、参考になります。
5.本件では、アラームの見落とし以外の問題も争われました。
まずは、死亡に至る機序、そして、救命可能性です。
この点、裁判所は死因について、時間の点でも原因の点でも幅のある認定をしたことは注目に値します。
リードエラーとなったままだったために、時間や原因を具体的に特定することは不可能であり、こうした事情を踏まえての認定と思われます。
救命可能性については、鑑定の結果を受けて本件患者の救命可能性が20%ないし30%と判断され、高度の蓋然性を認めずに因果関係を否定しましたが、相当程度の可能性を侵害したとして慰謝料を認めました。
相当程度の可能性侵害の場合、慰謝料額には幅がありますが、約3時間もの間対応がなされなかったことや、救命可能性が20%ないし30%はあったことからすると、200万円の慰謝料には評価が分かれるでしょう。
金額だけの問題ではありませんが、病院側の体制の見直しや教訓として、再発防止に結び付けてほしい事案です。
6.また、本件では事故後に、院長や弁護士が、患者の死因を心破裂等とする報告書や意見書を作成しており、虚偽の説明により権利行使が妨害されたか否かについても争いに発展しました。
裁判所は違法性を認めませんでしたが、双方にとってさまざまに負担の大きな事案であったことが伝わります。
事故発生後に、医療側が説明内容を変遷させたり、一方的と疑われるような説明を繰り返したりしてしまうと、患者側の納得や信頼は得難いものでしょう。
本件のように結果が重大である事案であればなおさらです。
解明できない部分については、複数の可能性を指摘したうえ、できるだけ客観的に説明するなどの方法が取られていれば、遺族の納得度合いも違ったのではないでしょうか。
残念ながら、一度信頼関係が壊れてしまうと、問題は拡大し、さまざまに波及していってしまうリスクがあるのだと考えさせられます。