フィードバックをくり返し 内視鏡での診断力を磨く
がんの診断では、まずがんかどうかを見極める質的診断を行う。その上で、がんの範囲と深達度を明らかにする量的診断をする。この2つの診断を正確に行わなければ、ESDの適用を判断することはできない。
「後藤田先生の診断力は圧倒的でした。病変を見ただけで、どこに境界があり深達度はどのくらいか、すぐに見極められる。しかもその診断が、内視鏡で切除した病変とピタリと一致していました」
自分も同じ境地に達したい。その思いに突き動かされた草野氏は、持ち前の粘り強さで診断スキルの習得を目指していく。事前診断をしていた症例は、必ず治療後に振り返り、その診断が合っていたかどうかを確認する。診断の難しかった症例は、積極的にカンファレンスで発表し、他の医師たちとも情報を共有するようにした。その繰り返しで、的確な診断のための判断材料となるデータを、自分の中にひたすらインプットしていった。
当時のことを聞くと、「カンファレンスでは叱られてばかりでした」と話す。あまりの叱られように他の医師からは、「自分だったら無理だ」と慰められたこともあったという。それでも続けられたのはなぜなのか。
「内視鏡が好きなんですよね。好きじゃなかったら続けられないと思います。どんなに叱られても、できるまでは絶対に諦めたくないという強い気持ちがありました」
たとえすぐにはできなくても、必ず問題を解決して、次の機会にはできるようにする。必死で食らいついていく草野氏の姿勢は、いつしか内視鏡科の中で一目置かれるようになっていた。
また、内視鏡治療をする上で強みになったのが、外科での経験だ。当時、ESDは今ほど技術が確立されていなかったため、処置中に出血や穿孔などのトラブルが頻繁に発生していた。そうした場面において草野氏は、「対応力が群を抜いていた」と後藤田氏から高く評価されている。術者が冷静さを失うような場面でも、助手を務める草野氏が患者の全身状態をチェックし、看護師に的確な指示を出す。術者とは違う視点で全体を見ながら、常に落ち着いた対応をしていた。
「外科の領域では、あらかじめ頭の中で手技の手順をイメージし、最善のパターンと最悪のパターンを想定しておきます。内視鏡治療でもそれは同じで、いざというときに冷静に動けたのは、その準備をしていたからだと思います」