難聴患者への補聴器診療で耳鳴りの症状に大きな変化が
行き詰まっていた耳鳴り治療に大きな転機が訪れたのは、2004年に新田氏が済生会宇都宮病院に赴任し、聴覚診療のチーム体制を整え始めたことがきっかけだった。新田氏には自身が率いる耳鼻咽喉科を、耳の分野で日本トップクラスの診療チームにしたいという強い思いがあった。そこで必要になったのが聴覚を専門とする言語聴覚士の存在である。
「例えば人工内耳の埋め込み手術でも、術後のリハビリは結果を左右するほどに重要なもの。しかし全国に2万人いる言語聴覚士の中でも、聴覚を専門とする人材はわずか1%足らずでした」
その貴重な人材を確保するために、新田氏は言語聴覚士を養成する国際医療福祉大学まで出向いた。そこで紹介されたのが、現在、補聴器診療を担当する言語聴覚士の鈴木大介氏である。日本では国家資格を持たない販売業者が補聴器を扱っており、ほとんどの耳鼻咽喉科では補聴器の調整は業者に任せてしまっているのが実情だった。どうすれば難聴の患者に補聴器が適合するか、補聴器で少しでも聞こえを改善できないか、新田氏と鈴木氏は二人三脚で解決策を模索した。
「ゼロから始めたので苦労の連続でしたよ。毎日のように患者さんの測定データを見ながら二人で話し合い、思い当たることは一つ一つ全て実践しました」
そうした努力の日々の中で、患者たちにはある変化が表れていた。
「しばらくすると難聴の患者さんから『最近、耳鳴りがなくなった』と言われることが増えていったんです。これは…と思い統計をとったところ、驚きの結果が出ました」
2009年に耳鳴りの支障度に関する問診票(THI)のデータを基に、外来を受診した患者たちの耳鳴りの状態を点数化したところ、補聴器をつけ始めた患者の耳鳴りが劇的に改善していたのである。それも中程度の症状があった患者が、ほぼ耳鳴りを気にしない状態になるなど、明らかな改善が見られたのだ。そこから新田氏が導き出したのが、前述した耳鳴り発生のメカニズムなのである。