難しいからこそ挑戦する 呼吸器外科の道
『ブラック・ジャック』を読み、外科医になることを目指したという江花氏。呼吸器外科を専門に選んだのは、難易度の高い手術に惹かれたからだった。
「いろいろな手術を見た中で一番難しいと思ったのが肺の手術でした。動いている肺に対して、少しでも手元が狂えば大量出血してしまう。止血するのも至難の業で、術中の死亡率が他の臓器に比べて高い。だからこそ呼吸器外科医になろうと思いました」
難しい手術にチャレンジすることに迷いはなかった。山形大学を卒業後、当時、数少なかった単科の呼吸器外科を開設していた千葉大学に入局し、小開胸手術の手技を磨いた。その後は、気胸の専門治療や救急医療を経験し、さらに多くの症例を手掛けるために医局を離れる決断をした。
「呼吸器外科は簡単な手術がほとんどないので、若いうちに手術を任せてもらえる施設が少なかったのです」
1例でも多く執刀したいという思いから、一般外科で消化器の手術にも携わるようになった。
「その頃、臍を縦に2~3cm切開して、1つの孔から内視鏡で胆嚢摘出や虫垂炎の手術を行う単孔式腹腔鏡下手術(SILS)を行っていたのですが、肺の単孔式手術を始めるのに抵抗がなかったのは、その経験があったからかもしれません」
いずれは地元でという希望もあり、2011年に東京都立墨東病院に赴任。呼吸器外科を立ち上げると、2013年からは順天堂大学大学院医学研究科で気胸の基礎研究に従事した。そして2017年に再び墨東病院に戻ると、まずは4つの孔で行う胸腔鏡下手術を導入した。当時、国内には3ポート、4ポート、姫路式などいくつかの多孔式胸腔鏡下手術があり、それぞれが技術を高めている段階にあった。その中で江花氏に多孔式ではなく単孔式を勧めたのは、山形大学の恩師、大泉弘幸氏である。
「まだ日本では取り入れている医師はほとんどいませんでしたが、海外の情報に精通している大泉先生は『これからは単孔式手術の時代が来る』と先を読まれていました」