最短距離のゴールを目指し会話で多くの情報を引き出す
國松氏の外来では、どのようなプロセスで症状が改善していくのだろうか。初診の患者にまず聞くのは、1日の過ごし方である。
――何時に起きるのか、朝食は取るのか、それは誰が作って、誰と食べるのか。食後は何をしているのか、運動はするのか、お酒は飲むのか、何時に寝ているのか。
起床から就寝まで1日の流れに沿ってあらゆる情報を会話の中から引き出すのが國松流である。
「家族構成から食生活、運動習慣まで診療に必要な情報を多く聞き出せるので効率がいい。型にはまった病歴聴取よりも、自然な会話から得られる情報量のほうが圧倒的に多いんです」
会話から得た情報を基に立体的に患者を捉えることで、その後の診療効率は格段に上がる。そこで大事なのは、患者さんと常識的な話をして、常識的な反応を返すことだという。
「朝4時に起きると言われたら『ずいぶん早いですね』と驚き、『ずっと家の中にいる』のなら『なぜ外に出ないんですか?』と聞く。日常的に会話が少ない患者さんは症状をため込みやすい傾向にあります。自分の反応を見せることが患者さんの意識や行動を変えるきっかけにもなるのです」
不明疾患の診断では、どれだけ多くの情報が引き出せるかが肝となる。そして可能性がある疾患が絞られてきたら、ピンポイントで身体診察をして原因を突き止める。「いかに最短距離でゴールにたどり着けるか」も、國松氏が大切にしていることだ。例えば、患者が服を脱ぐ手間を省くため胸ではなく、首や鎖骨下などで聴診することもある。また、舌圧子を使わずに咽頭を観察する方法や、腹痛患者の触診では5段階の強さを用いて的確に患部を探し当てる方法など、さまざまなオリジナルの診察手法がある。
「臨床医はいわば職人であり、自分なりの流儀を持つことが許される職業だと思っています。身体診察も決まったやり方に縛られることなく、より精度を高めるために自分なりに工夫していけばいい」
さらに、薬の処方にも工夫がある。
例えば、咳の症状一つとっても、喘息があるのか、風邪で気管支が敏感になっているのか、喉や肺を酷使する仕事についているからなのか、咳を我慢しているから余計に出るのかなど、さまざまな原因が考えられる。咳が止まらなくなるまでに至る経緯や、どのような薬をどれだけ使って効かなかったかなど、ここでも会話による細かい情報収集が欠かせない。さらに年齢、性別、季節なども考慮し、その時その患者に必要な処方を考える。だからこそ、高い精度で治すことができるのである。
「グラデーションのように多数の因子が複雑に絡み合って症状が出る。その中から比重が大きい要素を判断し、どこからアプローチすればよいのかを緻密に考えて処方します」