Y2らの説明義務違反を認める
最高裁判決は、以下のように判断して高裁判決を維持し、Y1らの上告を棄却した。なお、X1らの附帯上告も棄却した。
本件において、Y2らがXの肝臓の腫瘍を摘出するために、医療水準にしたがった相当な手術をしようとすることは、人の生命及び健康を管理すべき業務に従事する者として当然のことだと言える。しかし、患者が輸血を受けることは自己の宗教上の信念に反するとして、輸血をともなう医療行為を拒否するとの明確な意思を有している場合には、このような意思決定をする権利は人格権の一内容として尊重されなければならない。
そして、Xが宗教上の信念からいかなる場合にも輸血を受けることを拒否するとの固い意思を有しており、輸血をともなわない手術を受けられると期待してY病院に入院したことをY2らが知っていたなど、本件の事実関係のもとでは、Y2らは手術の際に輸血以外には救命手段がない事態が生ずる可能性を否定しがたいと判断した場合には、Xに対して、Y病院としてはそのような事態にいたったときには輸血をする方針を採っていることを説明してY病院への入院を継続したうえで、Y2らのもとで本件手術を受けるか否かをX自身の意思決定に委ねるべきであったと解するのが相当である。
ところが、Y2らは本件手術にいたるまでの約1ヵ月の間に、手術の際に輸血を必要とする事態が生ずる可能性があることを認識していたにもかかわらず、Xに対してY病院が採用していた右方針を説明せず、X及びX1らに対して輸血する可能性があることを告げないまま本件手術を施行し、輸血をしたのである。
そうすると、本件において、Y2らは右説明を怠ったことにより、Xが輸血をともなう可能性のあった本件手術を受けるか否かについて意思決定をする権利を奪ったものと言わざるをえず、この点においてXの人格権を侵害したものとして、Xがこれによって被った精神的苦痛を慰謝すべき責任を負うというべきである。